『父の回数』著者 王谷晶さんインタビュー ──「こんな親子関係もあると思った」
撮影・園山友基 文・堀越和幸
本作は先頃、世界最高峰のミステリー文学賞・ダガー賞を受賞した王谷晶さんの最新短編集である。
表題作「父の回数」の主人公の僕は高校2年生。学校では“芸人系”の小林、“オタク”の目白、“優等生”の海老名とつるんでいる。家の前には小さな公園があり、僕は自室から海老名と一緒にその公園を眺めながら過ごす何もしない時間が好きだ。学校では喋るが家ではあまり喋らない。それは、学校では周囲から求められているような人としてキャラ付けをしているから。
「自分をどういう人として設定するかは多かれ少なかれ誰もがやっていることだと思います」
王谷さん自身もそうだった?
「今でもそういう部分はあると思います。というのは、きっとそのほうがラクだから。10代の頃、引っ込み思案だった私はよく親からもっと素直に感情を表に出しなさいと言われたのですが、自然のあるがままというのが意外に難しい。そう言われてもねえ、と思った」
僕には弟がいて、弟は父親の実の子どもだが自分はそうでないことをある日知る。父親は僕が小さい時の母の再婚相手だったのだ。
まだ見ぬ実の父親はYouTuberだった……
自分が「父さん」の実の子ではないことを知ってから、僕は子連れで再婚をした女の人の話をネットで漁るように読む。血のつながっていない父に暴力を振るわれたり、待遇で差をつけられたり、嫌がらせをされたり……。けれども、そういう不幸は自分には起きない。
そんな僕にある出来事が起きる。実の父の姉を名乗る女性が突然訪ねてきて、父の名前と連絡先の入った封筒を手渡してきたのだ。ネットにその名前を入力するとあるYouTuberのコンテンツがヒットし、そのタイトルには【閲覧注意】の4文字が躍っている。
「今の高校2年生の親の年代が40〜50代くらいだとすると、その世代ならネットは当たり前のようにみんなやっている。ならば、親がYouTuberをやっていてもおかしくはない、という発想がこの作品を書くきっかけになりました」
王谷さんは普段地上波をほぼ見ない。代わりにネット配信の番組やYouTubeを見る。
「中にはいい大人が……と思えるような内容もYouTubeにはありますが、それが仕事として、あるいは一つの産業として成り立っていることが興味深かった」
主人公の僕は、結局、自分を一番素直にさらけ出せる友だち、海老名の目の前で父に電話をかける。
「“自分のことをお父さんと思っててもいいか?”の問いかけに、感極まった主人公はあっさり“うん”と答えてしまいます。17歳といえど、そこはやっぱりまだ子どもなので……」
が、実の父は一筋縄ではいかないYouTuber。物語は、えっ!?という思いも寄らない方向に転がっていく。
「若い人を書く時はいつも緊張します。やっぱり生身の部分は自分にはわからないから。けれども本作は17歳っぽい17歳が書けたと、自分でも気に入ってます」
『クロワッサン』1147号より
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