映画監督、村上浩康さん「父の看取りを記録したら母の生きる姿が見えてきた。」【助け合って。介護のある日常】
撮影・井手勇貴 構成&文・殿井悠子
「 父の看取りを記録したら母の生きる姿が見えてきた。」村上浩康さん
「『死』は、日常の延長線上にあるもの。父の看取りを通して、その事実を伝えられたら」
ドキュメンタリー映画『あなたのおみとり』を監督した村上浩康さんは語る。
2019年に、父親の壮(さこう)さんは胆管がんの手術をして、3年の余命宣告を受けた。当時87歳。3年を過ぎる頃には入退院を繰り返していたが、壮さんの「家に帰りたい」の一言で、妻の幸子(さちこ)さんは自宅で看取ることを決めた。
母である幸子さんとは〝似たもの同士で喧嘩ばかりだった〟という村上さん。壮さんの介護が始まると、村上さんは東京から東北地方にある両親の住む実家に通うようになったが、ベッドをどこに置くかとか、些細なことで幸子さんと対立した。
だんだん実家に帰るのが億劫になっていった村上さんが、主体的に壮さんの介護と向き合う理由が欲しくて手にしたのが、職業でもあるカメラだ。
「最初に撮影したのは訪問入浴の日。介護スタッフさんがやって来て、うちの狭い台所にまたたく間に浴槽を組み上げてお湯を注ぎ、あっという間に父をお風呂に入れて、風のように去っていったんです。衝撃でした」
そこで繰り広げられる介護者である幸子さんとヘルパーとの会話や、介護に関わる当事者しか知らないような出来事。振り込め詐欺などの怪しい電話がしょっちゅうかかってくる高齢者の家の現状。小さな実家のなかで、日本の高齢社会が抱えるリアルな課題が見えてきた。
「いずれほとんどの人がこういう状況を迎えるんだなと思ったら、記録する意義が見えてきて。父の生命を尊重するからこそ、包み隠さず全てを撮ろうと決めました。母は、若い頃から父が禿げててイヤだったとか、父が死んだ後でも楽しくない人だったとか悪口を言う。でもそれが夫婦の本音。撮影していくうちに、父が日々弱っていくのに反比例して、母はどんどん元気になっていく。ヘルパーさんや看護師さんたちが家にやって来るので、母の人間関係は広がっていました。ファインダー越しに見ると、その様子はまるで、父が生きるエネルギーを母に託していってるような光景にも思えたんです」
看取りを記録した村上さんが振り返って思うのは「父の看取りを撮ることは、母の生きる姿を撮ることでした。残された人が大切な人の死を乗り越えて自分の人生を再び歩み始めるために、村上家の看取りの〝日常〟を覗いてみてください」。(続く)
『クロワッサン』1128号より