理学療法士に教わる、腰を痛める危険なNG習慣と体を守る4つの正しい動作。
イラストレーション・松栄舞子 文・田村幸子
古武術を嗜む理学療法士の岡田慎一郎さんによれば、「二足歩行になった人間は野生動物と比べて、身体の使い方が退化している」という。スマホを見るときや、重い荷物を持ち上げるときは要注意。首単独で曲げたり腕だけで持とうとすると、負担が1カ所に集中して凝り固まったり痛めたりする。
「ポイントは負担の分散。動作の原則は、肩甲骨から背中と腕を連動させて、股関節を中心に足腰を動かすことです」
股関節の位置はお尻の付け根。お尻の下のしわができるところにあり、英語では「ヒップジョイント」。肩甲骨と股関節を意識して動くと、負担が分散し、疲れにくい姿勢がキープできる。
【腰に負担!】
【NG】重い荷物を腕だけで力まかせに持ち上げる。
ダンボール箱など重い荷物を運ぶとき、腕の力だけで持ち上げるのは厳禁。大きな荷重がかかり、腰を痛めてしまうので要注意。
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【OK】全身を使って負担を分散。股関節を中心に持ち上げて。
しゃがんで荷物にぴったり近づき、まず腰を上げていき、次に上半身を上げると全身が連動した結果、ラクに持ち上がる。
引っ越しや片づけなど、重い荷物を運ぶときは要注意。膝を曲げず、腕の力だけで無理に持ち上げたら、腰に激痛が走るかもしれない。
「腕力や腰を中心にするのではなく、股関節を中心に上半身と足腰、全身を連動させるようにすると、重い荷物もラクに持ち上げられるようになります」。
さらに、肩甲骨を広げ、背中に適度な張りを作ると、背中と腕が連動して力が出せ、よりラクに。
【NG】くしゃみをするとき、手で 何気なく口元を押さえている。
くしゃみをするとき、両手で口元を押さえたり、片方の手をぶらんとさせたままだと、腰に体重の数倍の衝撃がかかる。
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【OK】くしゃみが出そうになったら、 片手を脚につけて衝撃を逃がす。
くしゃみが出そうになったら、腰への衝撃を分散させるために、腰をかがめて膝や太ももに片方の手をつく。椅子や壁につかまってもいい。
「魔女の一撃」といわれるとおり、くしゃみが原因で腰に激痛が走り、ぎっくり腰になる人は少なくない。
「私が行った動作解析実験では、くしゃみは体重の6倍の負荷がかかりました。その衝撃を逃がすには、片手で椅子の背もたれや壁にふれておくこと。とっさのことで見つからなければ、片手を膝や太ももあたりについても、衝撃が分散されて腰への負担が軽くなります」と岡田さん。
【NG】お腹から前かがみになって毎日食器を洗っている。
食器洗いや調理など台所仕事をしているとき、お腹から曲げて前かがみになると、腰に負担が集中してしまいダメージを受けやすい。
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【OK】片足を台にのせるか片足を引き、 股関節から曲げて前傾姿勢に。
食器洗いのとき、片方の足を引くだけで姿勢に変化が。股関節から上体が前傾するため、腰への負担が軽くなる。骨盤と腰骨はまっすぐにキープすること。
シンクの前に台を置いて片方の足をのせると、股関節が曲がって自然と理想的な前傾姿勢に。これで毎日の食器洗いも腰に負担がかからない。
キッチンは家庭内の腰痛発症ゾーン。
「キッチンでの腰痛防止はとても簡単です。お腹から前かがみになってしまう習慣のある人は、台を用意して片足をのせると、自然と股関節が曲がり、上体が正しく前傾して疲れにくい姿勢がとれるようになります」。
必要な台の高さは身長によって異なるので、股関節が心地よく曲がる高さを確かめよう。片方の足を引くことでも同様の効果が得られる。
【NG】お腹からかがみこんで前のめりになって床を拭いている。
腰に響いて床掃除が苦手という人は、しゃがみ方が不安定で、お腹から曲げてかがんでいるのかも。腰に負担もかかり前に進みにくい。
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【OK】股関節から上半身を前に倒して片膝を立てて床を拭くと疲れにくい。
両膝を股関節から広げ、片膝を立てる。腰が曲がらず、股関節から前傾できるようになることで、安定して動きやすくなる。
しゃがんで拭き掃除を続けると、腰がだるくなりがち。
「和式トイレがほぼなくなった今、しゃがみ姿勢ができない人は少なくありません。私がおすすめする腰に負担をかけない床掃除は、片膝を立てるのがポイント。腰から曲げず、股関節から上体を前に倒して拭いてください」と岡田さん。
この拭き方なら、太ももの前と内側、裏側も使われるようになり、負担が分散されて疲れにくくなる。
『クロワッサン』1110号より