美食の街メルボルンの奥深さを知るふたつの体験型フードツアー。
写真・文 斎藤理子 ※文中のAUD(エーユーディー)はオーストラリアの通貨です。1AUD=107.50円(2024年7月1日現在)
バラエティに富んだメルボルンの食文化を効率よく楽しむには、現地のフードツアーに参加するのがおすすめ。無数にある飲食店からテーマにそってベストなところをピックアップしてもらえ、効率よく回ることができます。少人数でもOKでカスタマイズもできる人気のフードツアーふたつに参加してみました。
話題の人気店やマーケットをめぐる、食べて学んで大充実のフードツアー。
最初に参加したのは、Localing(ローカリング)という会社が催行している、〈メルボルン・カルチャー & フード・デイツアー〉。ローカリングは、個々の希望に応じてツアーを組み立ててくれ、フードに限らず様々なテーマや地域のツアーを実施してくれます。“決まりきったツアーが嫌いな人のためのツアー”というキャッチフレーズの通り、極めてパーソナルな希望にも的確に対応してくれる会社。熟練のガイドとドライバーによるツアーは、安心で非常に充実したものです
まずは、ニューヨークタイムズで世界一のクロワッサンと賞賛された、クロワッサン専門店〈LUNE CROISSANTERIE(ルーン・クロワッサンテリー)〉へ。創業者でオーナーのケイト・リードさんは、元フォーミュラワンの空気力学者。科学者だけあり、最高のクロワッサンを作るために素材の分量には0.1gまでこだわり、発酵の時間、湿度、温度も完璧に管理。そうして焼かれたクロワッサンはふっくらサックサク。食べたことのないような皮のパリパリ感と中のモチモチ感、豊かなバターの香りが口中に広がり、世界一と称されるのも納得のおいしさです。
そのクロワッサン生地をベースに、ここではプレーンはもちろん、甘いものから食事パンまでさまざまなクロワッサンを展開しています。フィッツロイというエリアにある本店では、カウンターでクロワッサン3コース(プレーン、食事クロワッサン、スイートクロワッサン)が食べられるルーン・ラボがあります。目の前で職人たちがクロワッサンを作っている光景をみながら、世界一のクロワッサンを堪能するのは、ここでしかできない食事体験です。
庶民からプロまで、メルボルンの食を支えているのが〈QUEEN VICTORIA MARKET(クイーン・ビクトリア・マーケット)〉。19世紀から続く、南半球最大の市場で、メルボルン中央ビジネス地区(CBD)北部にあります。7ヘクタール以上の広大な土地に、野菜、果実、肉、魚介、パン、ワイン、加工品、調味料、スパイスなどなど、ありとあらゆる食料品店が林立。日常雑貨や衣類を売るエリアもあり、暮らしに必要なものはほぼ全て揃う市場です。
屋台やテイクアウトのお店も大変充実しているので、マーケットでの食べ歩きは絶対に欠かせません。特に立ち寄りたいのが、魚介売り場にあるオイスターバー。オーストラリア各地の牡蠣が食べられますが、中でも濃厚で甘みがありジューシーなタスマニア産オイスターは必食です。魚屋で購入して店頭でレモンを絞って食べるシンプルさも最高。汚染が何もないピュアなタスマニアの海で育った牡蠣の極上のおいしさを手軽に体験できます。
口直しに、〈Jam donuts(ジャム・ドーナツ)〉で揚げたてのドーナツをぱくついたら、新鮮なムール貝の白ワイン蒸しが食べられる〈THE MUSSEL POT(ザ・マッスル・ポット)〉へ。ポート・アーリントンの生産者から直送される新鮮そのもののムール貝もまた絶品です。
ほとんどのレストランやカフェは、メルボルン中央ビジネス地区(CBD)に集中していますが、そこから車で北に20分ほど行ったフィッツロイというエリアは、メルボルンのカルチャー発信地として有名です。カフェやバー、ギャラリー、アンテークショップ、専門書店などさまざまな魅力的な店が混ざり合い、独特の雰囲気を醸し出しています。ローカリングのツアーでは、このエリア探訪に連れて行ってもらえます。
フィッツロイを楽しむには、歩いて回るのが一番。車を降りて、まずはユニークなアイスクリーム屋〈Fluffy Torpedo(フラッフィー・トルペード)〉へ。壁に貼られたメニューを見ると味噌や醤油の文字があり、それ以外にも素材のユニークな組み合わせがずらり。食べてみると、それぞれ見事な調和が取れていておいしく、違和感は一切ありません。オリーブオイルやチリなどを使ったものもあるのに、全部がアイスクリームとして完成されているのが驚きです。
フィッツロイにあるマイクロブリュワリーパブの〈Stomping Ground Brewery(ストンピング・グラウンド・ブリュワリー)〉は、オーストラリアで最高のブリューパブに選ばれたこともある名店。小さなブリュワリーなのに、タップはなんと25以上。どれにするか迷ったら、おまかせで6種類選んでもらうクラフトビールの飲み比べのハウスセレクション AUD20を。ラガーからアメリカン・ポーターまで、幅広いラインナップで、ビール好きにはたまらない体験です。自家製ビールに合わせた食事メニューも豊富。軽いつまみから、しっかりとした食事まで、いろいろな使い方ができるのも魅力です。
焙煎所、コーヒー豆貯蔵庫、バリスタトレーニングセンター、コーヒーイベントスペース、ショップが1箇所に集合したカフェが〈Aunty Pegg’s(アンティ・ペグス)〉。こちらもフィッツロイにあります。ここでは、コーヒー豆による味の違いを学べる、コーヒーテイスティングが体験できます。粗挽きのコーヒーをグラスに加え、沸騰したお湯を注ぎ淹れたコーヒーを少量飲むために使用される特別な“カッピングスプーン”でテイスティング。バリスタがストップウォッチで時間を計りながら、産地が違う6種類から丁寧にコーヒーを抽出します。味や香りの違いをワインのように的確に表現するバリスタの味覚の鋭さに感動しつつ、豆ごとの違いが明確にわかって勉強になります。
歴史と文化を学びながら、食べ歩きも楽しめるフードツアー。
次に参加したのは、Foodie Trails(フーデイ・トレイルズ)という会社が催行している、〈メルボルン・ウォーキング・フード・ツアー〉。メルボルンのレーンウェイ(路地)を歩いて回りながら、多彩な食文化を体験します。ツアーは、〈Immigration Museum(イミグレーション・ミュージアム/移民博物館))から始まります。
ヴィクトリア時代に建てられたかつての税関を博物館にしたイミグレーション・ミュージアムは、オーストラリアの移民の歴史が展示されています。知識豊富なガイドさんの解説を聞きながら回るので、移民の生活や文化などがよくわかり、オーストラリアの国の成り立ちを理解することができます。
博物館を歩き回ったら、人気のカフェ〈SALUMINISTI(サルミニスティ)〉で小休止。
市内には3軒ありますが、フリンダーズ・レーン店は、テイクアウト専門。毎日朝から晩まで行列が途切れることがありません。名前の通り、サラミなどのシャルキュトリを使ったパニーニも大人気。皮をカリカリに焼いたポルケッタ(ローストポーク)をつまみにフラットホワイトを飲むのが、地元スタイルなのだそうです。
次に訪れたのは、ベトナム料理店の〈Little Brother(リトル・ブラザー)〉。生春巻き、フォーなど、ベトナムのストリートフードが気軽に食べられます(営業は夕方まで)。ここで生春巻きをつまみながら、クリスティーンさんからベトナム移民の歴史を聞きます。ベトナム戦争などで難民になった人々の多くをオーストラリアは受け入れたことから、郊外にはベトナム人街もあるそうです。
ベトナムの次は中国。〈MR.BO(ミスター・ボー)〉で飲茶を。蒸し餃子や小籠包など、店で作っている点心はどれも本格的で本場の味。種類も豊富で、あれこれ食べたくなるので4人くらいで行きたい店です。ここでも中華系移民の話や、別の場所にあるメルボルンの中華街の話などをクリスティーンさんから聞きます。
ウォーキングツアーの次の目的地は、〈The Block Arcade(ブロックアーケード)〉。精密なモザイクタイル張りの床、美しいアールデコ調のステンドグラス、開放感のあるガラスキャノピーなど、1892年に開業したビクトリア朝後期のショッピングアーケードとして最高傑作と称されているアーケードです。メルボルンで最も華やかで美しく有名なショッピングアーケードは、観光スポットとしても人気。個性的なお店がたくさんあるので、見るだけでも楽しめます。
最後は〈Royal Arcade(ロイヤル・アーケード)〉。開業は1870年。メルボルンで一番古いアーケードです。ビクトリア朝様式とビザンチン様式の調和の取れた建築はシックな印象。
電気があまりなかった時代の建築物なため、天井はガラス張りで自然光がたっぷり入るようなデザイン。それがまた心地よくて、長居をしてしまいます。
協力:オーストラリア政府観光局 https://www.australia.com/ja-jp
ビクトリア州政府観光局 https://jp.visitmelbourne.com/