就寝前15分の呼吸法で心身を整え、疲れをリセット。杉山愛さんの健康法。
撮影・青木和義 文・黒澤 彩
いいイメージに引っ張られて脳が騙されるのかも?
言わずと知れた元アスリートの杉山愛さんは、先日、第2子の妊娠を発表したばかり。以前にも増して体調に気を使う日々のなかで、明るく健やかでいられる秘訣を聞いてみた。
プロテニスプレーヤーとして世界のツアーを転戦していた頃から「唯一続けているルーティン」だというのが、医師の塩谷信男さんが提唱した「正心調息法」を取り入れた呼吸。
「簡単にいうと、腹式呼吸しながらポジティブなことをイメージする方法です。選手時代、試合で力を発揮できずに悩んでいた頃に出合いました」
やり方はとても簡単。仰向けに寝る、もしくは椅子に座った状態で、下腹部にある丹田を意識しながら深く腹式呼吸を繰り返す。このとき、いい結果や、なりたい姿を思い浮かべることが重要なのだという。
「自分で自分の脳を騙すというか、思い描いたイメージのほうに引っ張られていく感覚になるんです。そうすると実際にイメージどおりのいいプレーができたり、心と体が整いやすくなったので、私にはこの呼吸法がすごく合っているのだと思いました」
現役時代は、朝晩30分ずつしっかりと呼吸の時間をとっていたほか、試合中のわずかなタイミングにも呼吸で心身を整えた。
「テニスの試合では、パニック状態になってしまうことも少なくありません。それを自分一人でコントロールしなければいけないんですよね。失点してしまったとき、次のプレーまでの25秒間で気持ちを立て直せるかどうかが勝敗の分かれ道になるのですが、私はそのたびに深呼吸しながら、いいプレーをする自分のイメージを上書きするようにしてきました」
1.杉山さんはベッドで仰向けになって行うが、椅子に座った状態でも可能。目を閉じて心を静め、鼻から深く、ゆっくり息を吸う。
2.吸った空気はすぐに吐かず、お腹にいったんとどめる。頭の中でポジティブなイメージを映像のように思い浮かべる。
3.口、鼻、どちらでもいいので、ゆっくり息を吐く。疲れやネガティブな感情を外に出すような感覚で。1〜3を繰り返す。
ちょっとした不調や心の不安も深い呼吸で取り除く。
空気を吸って太陽のエネルギーを取り込み、吐きながら疲労物質が放出されるような感覚を持ちつつ、次のプレーをイメージする。いつでもどこでも疲労感をリセットできる呼吸法は、杉山さんの強みになった。
選手時代のように追い込まれることがなくなってからも、呼吸の効果を実感している。今は就寝前の15〜20分、ベッドに仰向けになり、部屋を暗くして行う。
喉が弱く、少し声がかすれている日には、呼吸をしながら声が出るようになった状態をイメージしてそのまま眠りにつく。
また、第1子の出産前で不安になりがちだったときは、毎晩、子どもが無事に生まれてみんなに祝福されている場面を繰り返し思い浮かべ、呼吸をしていたという。
「できるだけ具体的にいい結果、いい未来のイメージを描くことがポイントだと思います。科学的な根拠はないので私の思い込みかもしれませんが、この呼吸法のおかげで心身とも健やかでいられるような気がします」
気になる健康法はやってみる! 夫婦で糖質制限にもチャレンジ。
ずっと続けているのは呼吸法だけと話していた杉山さんだが、よくよく聞けば、やはり健康への意識は高い。昨年の外出自粛をきっかけに夫婦で取り組んでみたという、ケトジェニック(糖質制限ダイエット)もそのひとつ。
「夫も私も始めてすぐに効果が出て、ちょっとびっくりしました。私の場合は体重が減っただけでなく、お通じがよくなったり、体からエネルギーが湧く感じがあって、日中、眠気におそわれることもなくなりました」
カロリーを気にしなくてもいいので、メニューの工夫次第で楽しく続けられる手応えがあったそう。ケトジェニックでは乳糖を避けるのだが、発酵させたチーズやバターは食べてもいいという考え方。そこで、話題になっているグラスフェッドバターも試してみたところ、なかなか調子がよいという。そうした目新しいものや、誰かにすすめられたものは、ひととおり試してみるのが杉山さん流。
「健康法って本当にいろいろなものがありますよね。実際にやってみないとわからないので、よさそうだなと思ったら積極的に取り入れます。その中から、呼吸法のように自分にぴったりのものが見つかることもあるし、合わないと感じたらすぐやめちゃいます」
これさえしていればOKという万能な健康法はあり得ない、と杉山さん。
心と体が出すかすかなサインを見逃さず、いいものは取り入れるという柔軟さを見習いたい。
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最近のお気に入りは、重炭酸の入浴剤。「しっかり温まって疲れがよくとれますよ」。
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「最初に知人からもらったのがこれ。半身浴に欠かせません」。重炭酸イオンがお湯に溶け込み、温浴効果が高まる。