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【歌人・木下龍也の短歌組手】この説明できない短歌の魔力に目を向けて。

第41回全国短歌大会大会賞を受賞して以降、精力的に活動を続ける歌人・木下龍也さんが読者の短歌にコメントをする連載『短歌組手』。今回のお題に600首を超える応募が集まりました。ご応募ありがとうございました。応募作の中から木下さんが選んだ短歌を数回に分けて紹介していきます(短歌は新しいお題で引き続き募集中です)。
彫刻の森を訪れる木下さん。
彫刻の森を訪れる木下さん。

〈読者の短歌〉
近所のよく吠える犬は近所では決して吠えないことで有名

(鈴木ジェロニモ/男性/テーマ「ペット」)

〈木下さんのコメント〉
僕にやさしい犬は僕だけにやさしい犬ではないが、僕に吠える犬は僕だけに吠える犬である。こういうことってよくあります。なぜだろう。

〈読者の短歌〉
ほかでもない、あなたがそうしてくれたから
あなたがすきです ほかではなくて
(からあげ/女性/テーマ「わたし」)

〈木下さんコメント〉
魔力を感じる。なんなんだ。直球の魔力か?ひらがなの魔力か?「あなたが」「あなたが」「ほかでもない」「ほかではなくて」という繰り返しの魔力か?言葉の握り方がやわらかい。読点と一字空けも効いている。これ以上僕には解説できないが、これを掲載しないことが間違いのように思えた。みんな見てくれ、なんなんだこの魔力は。

〈読者の短歌〉
今はもう いくつもの管に つながれた 母の留守電の声 消せないでいる
(kun./女性/自由詠)

〈木下さんのコメント〉
短歌を書くとき、通常であれば57577の間に1字空けは必要ありません。が、この短歌はあえて1字空けを入れることによってこの短歌の主体(主人公)が途切れ途切れにふりしぼりながら悲しみの独白をしているように感じられ、効果的であると思います。

〈読者の短歌〉
すみれ、すみれと呼ばれたドローンが彼にすり寄って公園を去る
(虹色ギャランドゥ/テーマ「ペット」)

〈木下さんのコメント〉
「すみれ、すみ/れと呼ばれたド/ローンがか/れにすり寄って/公園を去る」と区切ればちゃんと57577になっています。ペットというお題にドローンをぶつけてくるその発想がすばらしいです。たしかにドローンってペット感がありますね。形状が花のようであるから「すみれ」という名前も現実離れしていません。「すり寄って」という言葉から「ドローン」の4文字を「恋人」と勝手に変換してしまいそうなくらいほほえましい光景が目に浮かびます。

〈読者の短歌〉
短歌など 書いてる時点で 駄目なんだ モテるあの子は 絶対やらない
(ななぽっぷ/女性/テーマ「私」)

〈木下さんのコメント〉
その通り。その通りだが、ほんとうのことを言わないでくれ。

〈読者の短歌〉
年齢とともにすっかり衰えた別腹という架空の臓器

「はじめまして。フランス在住の料理人です。
木下龍也さんと岡野大嗣さんの歌に出会い、今年の年初から短歌を詠みはじめました。
短歌の投稿企画には興味はあってもなかなか手が出せずにいましたが、尊敬する木下さんの企画ということで今回勇気を出して初挑戦させて頂きます。」
(mfmf/女性/テーマ「老い」)

〈木下さんのコメント〉
共感性のある歌。「架空の臓器」という捉え方が巧み。

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