『オヒョイ 父、藤村俊二』著者、藤村亜実さんインタビュー「親父は最期まで“今”を生きることを楽しんだ。」
撮影・中島慶子
オヒョイさんの愛称で親しまれた俳優、藤村俊二さんが亡くなって1年あまり。長男の亜実さんが記した本書はテレビではうかがい知れない父親としての素顔を記す。
「子どもの時から親父は僕にとって特別な人で、周囲のお父さんとも全然違う。どうすればあんな生き方ができるのかと思っていつも子どもなりに客観的に見ていました。『ぴったしカン・カン』でも親父の番が回ってくると、うれしさよりも“何を言うんだろう”とドキドキしていましたから(笑)」
“ちゃんと学校で勉強していれば家で勉強をする必要はない”と中間試験の最中でも家族でおいしい食事に出かける。“日本人がいない”と年末年始をフィリピンの孤島で過ごすなど、紹介されるエピソードは確かに世間の父親像とは異なるが、家族への愛情を藤村さんが第一に考えていたことを偲ばせる。
「親父は忙しかったと思うんですが僕らをいろいろなところに連れていってくれたので、楽しかった記憶しか残っていないんです」
そんな藤村家に大きな転機が訪れる。亜実さんが20歳の時に藤村さんが別居を決意。家族の前で「家を出ていく」と宣言するのだ。
「いきなりでしたが、姉と僕には『君たちとの関係は変わらない』と言ったので、親父が考えたことなら受け入れようと思いました」
その後、亜実さんは単身渡米して、現地でCMコーディネーター業に就く。藤村さんとは電話や仕事を通じてやりとりはあったが距離感を覚えることが多くなる。
「このままでは親父の子どもとして生まれた意義がわからないままで親子関係が終わることになると思って、帰国を決めました」
戻った後には念願の親子暮らしも始め、新しい絆を作ろうというなか、藤村さんは小脳の出血で緊急入院する。亜実さんはそれから1年3カ月にわたり、つきっきりで藤村さんに寄り添う。
「病室では親父からの愛情を確かめたり、憧れていた生き方を見つめることができました。親父はメモ書きで『この世でいちばん愉快なことは何かを持っていることではなく何かを体験できる瞬間である』と言葉を残したんですが、今を楽しく生きることが大事だと教えてくれた気がするんです」
多くの葛藤を乗り越えながら真摯に父と向き合った亜実さんに藤村さんが亡くなる前に掛けた言葉は「ありがとう」だった。
「心の中にあった怒りや悲しさが消えて、これまでの出来事すべてが許せるようになりました。僕にとっては親父との関係がもう一度繋がった、幸せな時間でした」
勉誠出版 1,300円
『クロワッサン』970号より