くらし

行動することで変わる人生もある。映画『シンク・オア・スイム ーイチかバチか俺たちの夢ー』

  • 文・杉谷伸子
うつ病を患い、会社も退職したベルトランは同世代のワケありメンバーだらけのシンクロチームに入団。トレーニングに励む。(C)2018 -Tresor Films-Chi-Fou-Mi Productions-Cool industrie-Studiocanal-Tf1 Films Production-Artemis Productions

アーティスティックスイミングと名称が変わったけれど、男子シンクロナイズドスイミングといえば、誰もが思い浮かべるのが『ウォーターボーイズ』。高校生たちの青春も未来のスターたちの輝きも眩しかった。

しかし、こちらはおじさんシンクロチーム。中年男が何かに挑戦するときには、こんなはずじゃなかった人生の一発逆転がかかっているのだ。このおじさんチームも例外じゃない。主人公はうつ病で2年前に退職し、引きこもりな日々を過ごしていたベルトラン。公営プールで見かけたシンクロメンバー募集に天啓を受けたかのように、チームに参加するものの、仲間たちもそれぞれが家庭や仕事に問題を抱えていたのだから。おまけにチームのメタボ率もけっこう高い。パフォーマンスを披露するためにプールに転がり入る姿は、トドのよう。はっきり言って不格好だが、そこに味を感じさせるのが、人生の半ばにさしかかった大人ならでは。

ベルトランは妻に悩みを打ち明けるなかで家庭や仕事にも向き合おうとしていく。

なにしろ、演じるのがマチュー・アマルリックをはじめとして、フランスを代表する実力派の面々。スターを夢見続ける長髪ロックおじさんはジャン=ユーグ・アングラードだし、いつも怒ってばかりいる気難し屋はギョーム・カネなのだ(リアルなおじさんぶりときたら、すぐには彼らと気づかないほど)。かつてイケメンとして日本でも女心をときめかせた名優たちが、このおじさんチームの青春が輝いていただろう’80年代ミュージックにのせて、海パン一丁で舞い泳ぐ。彼らがすったもんだの末に披露するクライマックスのパフォーマンスはまさに感動もの。

元シンクロ選手デルフィーヌ指導のもと、8人は世界選手権での金メダルを目指す。

でも、本当の感動は、彼らがその挑戦を通して見つけるものにある。人生はそう簡単には変わらないけれど、行動することで変えられる自分もある。そんな人生の真実が、笑いの先に沁みてくる。昔好きだった人が今も元気で頑張っている姿を目にしたような幸せを感じさせてくれるキャストの魅力とあいまって。

『シンク・オア・スイムーイチかバチか俺たちの夢ー』
監督・脚本・脚色:ジル・ルルーシュ 脚本・脚色:アメッド・アミディ、ジュリアン・ランブロスキーニ 出演:マチュー・アマルリックほか 7月12日より東京・新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次公開。

『クロワッサン』1001号より

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