くらし

錆びない釘。│束芋「絵に描いた牡丹餅に触りたい」

初めて大きな賞をいただいた23歳のとき、恩師に報告に行った。一緒に喜んでくれるかと思いきや、誰一人として、私が浮き足立つような言葉をくれなかった。ある人は「たった1つのインパクトのある作品を作るというのは、多くの人ができること。2作目、3作目が大事だ」と。またある人は「20代の間は若い女の子がなんか作った、と言ってチヤホヤしてくれる。30代からが勝負だ」。そして「賞を取ると力が集まってくる。その力をどう使うかに将来は掛かっている」と言う人も。誰もが共通して「これから先、何をやるかが大事だ」ということを口々に言っていた。あれから20年たった今、あの時、20代前半の私に、ただ賞をもらった喜びを存分に噛みしめる時間など与えず、すぐに次の展開を考えさせた私の恩師は、やっぱり凄い人たちだったんだ、と感じる。

実際、若いということ、そして女であることは、それだけで価値(いい意味でも悪い意味でも)があり、そのことに本人が気付いていないから危なっかしい。大人たちは喜び勇んで報告に来たフワフワしたところに立つ私に釘を刺してくれた。いまだその釘は私に刺さっている。いつか私も、20年経っても錆びない釘を後輩たちに刺せるような大人になりたい。

束芋(たばいも)●現代美術家。6月23日まで横浜美術館の展覧会『Meet the Collection』に参加。

『クロワッサン』997号より

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