大人の女性にこそふさわしい、味わい深い東京の名居酒屋。
撮影・青木和義、文・池田祐美子
進化しているのに「粋」であり続ける、名店の奥深さにはまっています。(井澤由美子さん)
背筋がピンとする雰囲気が好き。居酒屋では自分らしく品を持って過ごしたい。(藤井 恵さん)
10数年来の付き合いがあるという料理研究家の井澤由美子さんと藤井恵さん。年齢が近いことや、子ども同士が同じ年ということもあり、気づいたら居酒屋めぐりをする間柄に。
藤井恵さん(以下、藤井) 同じ仕事に就いていることもあって話題が似ていて、共通項がたくさんあり、興味を持つポイントがお互い同じだったりするのよね。
井澤由美子さん(以下、井澤) 私は麗人が大好きだから(笑)。飲み歩きをご一緒するようになったきっかけは、自分が好きな居酒屋に藤井さんをお連れしたことから。
藤井 私が贔屓にしている居酒屋も井澤さんに知ってほしくて、その次は私がお誘いしました。
ふたりがこよなく愛するのが、湯島の『シンスケ』。江戸時代に酒屋として商売をはじめ、関東大震災の復興から酒場へと変わり、今に至ります。
井澤 こちらは、私が“ひとり湯島”と称して、居酒屋めぐりをする起点となったお店。私自身、生まれも育ちもこの界隈で、この町が大好き。まずは、ビールでスタートね。四代目がビールを抜栓する時の“シュポンッ”という爽快な音。シャンパンを開ける時の軽やかな音を彷彿とさせて、気分が上がるんです。
藤井 この音がオフに切り替わるスイッチかな。
井澤 私には、さあ飲むぞという幕明けの音に聞こえる(笑)。
藤井 歴史を感じる店、昔ながらの雰囲気が残る店は素敵ですよね。背筋がピンと伸びるような気持ちになる。
井澤 老舗だけど進化もしている。たとえば、刺身は日本酒と相性がいいけど、ビールを飲みながらもおいしく食べてほしいからと、和からしをそえてくれたり。揚げ物の衣には、浅草の人気ベーカリー『ペリカン』のパン粉を使って工夫をしたり。
藤井 お客さんを満足させるための進化を怠らない姿勢にまた虜になる。だから長く愛される店になるのよね。
ところで、おふたりが居酒屋で飲むときに気を付けていることは?
井澤 ご一緒するなら気が合う人とってことですね。飲んだり食べたりするペースが同じ人だと気を遣わないし。そしてハシゴ酒も楽しんで帰る! さすがに3軒目で椅子から落ちるという失態を披露したこともありますが……。
藤井 別れ際はお互い千鳥足だったり(笑)。でも、リフレッシュして明日につながるのはいいわよね。そんな楽しみ方もあれば、一方では、ひとりで過ごすのも大人ならではの時間です。
井澤 ひとり湯島を始めたのは、ゆったりした時間を持つためでしたが、背伸びすることもありました。が、初めてのお店でいきなり常連にはなれない。少しずつ溶け込んでいく過程も楽しめると、気負いもなくなります。
藤井 どなたかと時間を共有するのとは違って、ひとり静かにカウンター席で過ごす時間もいいものです。自分を見つめ直すことができる。
井澤 今度、藤井さんをお誘いしたい案が実はあるの。そう遠くないうちにどうかなって、秘かに考えているんだけど。湯島でもなく東京でもなくて。
藤井 まさかとは思うけど、海外!?
井澤 正解! 世界一入りにくいという噂の、スペイン・バルセロナやサンセバスチャンの居酒屋はどうでしょう?
藤井 東京を出て世界へ! ふたりなら楽しそうね。その時は大いに飲みましょう、お互い家に帰らなくていいんですし(笑)。
井澤 では、今日は新たな計画を立てに2軒目へ移動しましょうか。
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