岩立マーシャさん「美しく暮らすことをアートから学びました」
撮影・中垣美沙、大澤はつ江
玄関から目に入る広々としたリビング。階段を下りると、傾斜地を利用して地下の一部を吹き抜けにした、ダイニングとキッチンがある。
「数年前に引っ越してきました。それまでは人に貸していましたし、なにしろ築40年ですから、まずは掃除を徹底的に行い、それから家具やオブジェ、アート作品の配置を決めました」
岩立マーシャさんの暮らす空間には、様々な国のものが多数あるが、それらは絶妙なバランスで飾られている。
「アートとの関わり合いが、モノに対する考え方を教えてくれました」
24歳から4年間ニューヨークに住んでいた岩立さん。そこでジャスパー・ジョーンズや多くのアーティストと知り合い、親交を深めたことが大きい。ジャスパー・ジョーンズは、言わずと知れた20世紀のアメリカにおけるポップアートの先駆者。星条旗を描いた作品などで広く知られるアーティストだ。
「彼らから衣食住、すべてにわたって美しく暮らすことの本質を学びました。いいものを見たり、使うことでモノが輝き、自身の感性も磨かれていくのだと。器は料理を盛りつけ、日常に使うことで本来の役目を果たし、アートは毎日眺め、作者と対峙することで感情が豊かになる。これが美しく暮らすことに繫がっていくと」
旅先や出張先でも購入。拾ったものもディスプレイ。
家じゅうにアート作品や海外で求めた仏像やオブジェなどが所せましと飾られているが、ゴチャゴチャした印象はない。むしろ、整然とした配列の美しさが際立ち、心地よい空間になっている。
「モノがたくさんある場合、コントラストをどう取るのかが重要です。配置のルールはありません」
自分はコレクターではないので、モノを収集するルールはありません、とも岩立さんは語る。あえて異質なもの同士を並べて、そこから生まれる空気を楽しんでいる。言うなれば「見立て」。岩立さんのフィルターを通した異なるものたちは、不思議に同じテイストに見える。
「各国で買い求めたものをグルーピングし、どのアート作品と組み合わせるとベストか? これが自分を磨く要素のひとつなのかもしれません」
額装にもそのセンスが遺憾なく発揮されている。
「額は、作品との調和が一番重要なことは言うまでもありません。そのうえで、作品を生かす材質と色をセレクト。小さい作品でも、バランスがよければ大きい額に入れることもあります」
家具やオブジェは各国のアンティークが多いが、拾ったものをそこにプラスすることもある。
「様々なマテリアルやテクスチャーの絶妙な取り合わせを楽しんでいるのかも。家にあるものの多くは旅先や出張先で購入。石や流木などは拾ったもの。それらと日々、生活していると記憶が蘇ります。その時間、その時を共有した人、風景……。考えれば、そういった記憶が仕事のインスピレーションになっていることもあるように思います」
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