平井かずみさんのアトリエに学ぶ、美しい「引き算」の暮らし。
撮影・徳永 彩 文・黒澤 彩
これからは自分の心地よさを基準に、“選ぶ”暮らしをしたい。
向かいの公園をのぞむ大きな窓から、光がたっぷりと差し込む静かな部屋。ここは、フラワースタイリスト・平井かずみさんの新しく構えたアトリエ。置かれた家具はどれも昔からそこにあったかのように馴染んでいて、まだ入居して数カ月とは思えないほど調和のとれた空間に。
「以前から、自宅と教室をしているカフェのほかにも仕事の拠点にできる場所があったらいいなと考えていて、昨秋、いよいよ物件を探そうと一念発起しました」
なんと、最初に内見したのがこの部屋だったそう。1件目で契約を決めてしまったという、驚くべき潔さ! 朝早く生花市場に通うので、市場へのアクセスがいいのが条件だったが、なによりもシンプルでシックな内装と陽当たりが気に入って、即決。
「1件目で決めたというと驚かれるのですが、自分の直感を大切にしました。望んでいる空間のイメージがかたまっていたから、迷いもありませんでした」
そうして新たな部屋づくりがスタート。自宅からテーブルと椅子、飾り棚を運び入れ、洗濯機と、友人から譲り受けた小さな冷蔵庫を置いたら、もう事足りてしまった。
「まっさらな空間を前に、ここでどんなふうに過ごしたいか考えたとき、物をたくさん置かずに“余白”を大切にしたいと思ったんです。自分の心地よさを基準にして、目を養い、本当に好きなものだけを選びとっていこうと」
当初、新たに買ったものは、日本の古家具を黒く塗装してリメイクした食器棚ひとつだけ。物件を決める前からアトリエ用にと買っておいたものなのに、柱と窓の間のスペースに誂えたようにぴたりと収まっている。
「アンティーク家具との出合いは一期一会でしょう? 自分の好きなものがはっきりしていて、部屋のインテリアのイメージも頭にあったので、えいっと手に入れました。この井藤昌志さんの姿見もつい先日買ったばかり。姿見があると空間に奥行きが生まれます」
平井さんのように一から部屋づくりをすることはなかなか叶わないけれど、“余白を作る”“選ぶ”という発想は、どんな家にも応用できそう。それはいわば、引き算の暮らし。家を見渡してみると、「あって当たり前」と思っているものの中には、「意外となくても大丈夫」なものも多いのでは? やみくもに捨てるのではなく、メリハリをつけて部屋のどこかに余白を作り、物を買うときには本当に必要としているのかをよくよく吟味する。
「無理をしてでも物を減らすことが、暮らしの豊かさにつながるとはかぎりません。私も以前は、たくさんの物に囲まれていたほうが安心できました。引き算の生活をしてみたいと思う気持ちが芽生えたのはごく最近のこと」
今はまだ、新しい暮らしの実験中。ルールで自分を縛らず、その時々の気分を大切に、ここでの時間を楽しみたいと平井さん。
「空間に余白があると、不思議なもので時間や心にも余白が生まれるんです。忙しい毎日でも、一人でゆっくりお茶を飲んだり、お風呂に浸かって頭を空っぽにすることもできる。それがなんだか新鮮に感じられます」
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