くらし

【山田ルイ53世のお悩み相談】もっとざっくばらんに人と付き合いたい。

お笑いコンビ髭男爵のツッコミ担当で、作家としても活動中の山田ルイ53世さんが読者のお悩みに答える連載。今回は本当の自分が出せないと悩む女性からの相談です。
  • 撮影・中島慶子

<お悩み>
社会人3年目の会社員です。会社で、中々素を見せることができません。
昔から、人に対して、きちんとしなきゃと思い過ぎていて、どこか距離をとってしまいます。そのせいで、本当はふざけてばかりで、目立つことや、楽しいことも好きな性格なのに、中々、素を出すことが出来ません。ですが人間関係は悪くなく、みんなからは単に”つまらないけど真面目で良い子、優等生”と思われているようです。同世代の同僚は、みんなざっくばらんに、仲良くやっているのに、辛いです。
また、慣れていないせいか、特に異性には距離をとってしまいがちで男友達も1人もいません。
どうしたら色んな人とざっくばらんに付き合えるでしょうか?
(ぴよこ/ 女性、都内のメーカーに勤める20代の会社員です。)

山田ルイ53世さんの回答

本当は「目立つことや楽しいこと」が好きなのに、「つまらない優等生」と思われている……ぴよこさんにとってはさぞかし物足りない毎日でしょう。
反面、社会人3年目の若さで、「人に対して、きちんとしなきゃ」と距離を取り、「真面目な良い子」という周囲の評価を勝ち取った貴方の能力は相当なものです。

言うなれば、人間関係における"車庫入れ"の達人……正直、羨ましくさえあります。
そもそも、職場や学校などの公の場で、「素を見せる」、「ありのままの自分でいる」ということが、それほど素敵で持て囃されることだとは思いません。
"ざっくばらん"な近しい距離感を、むしろこそばゆく、居心地が悪いと感じてしまう僕のような人間は、貴方の高等テクニックをご教授頂きたいくらいです。
僕の場合はぴよこさんとは反対に、人付き合いがさほど好きでもないのに、芸人という職業柄か初対面の方に対しても、
「この人、気さくだなー!」
という印象を与えるような振る舞いが出来てしまう、いや、してしまうという悩みを持っています。
結果、仕事終わりで、
「この後、一杯いきましょー!!」
「週末、BBQやるんですけど、来ます?」
などとお誘いを受ける事態になることも少なくありません。
その途端、面倒臭いというかしんどくなってしまい、あれこれ言い訳してお断りすることになるわけですが、先方からすると、
「いや、どういうこと!? さっきまであんなに人懐っこい感じだったのに!?」
と戸惑いしかなく、後々、人間関係に暗い影を落としかねません。

僕がパーソナリティーを担当している、レギュラーのラジオ番組があります。
午後一時から始まる本番の前に、放送局の近所にある蕎麦屋で腹ごしらえをするのが習慣となっており、ここ数年は、ほぼ毎週欠かさず通っています。
いわゆる"常連さん"という状態です。
入店時には、笑顔で一言二言、必ず言葉を交わし、
「ここの蕎麦を食わねーと始まんないんすよねー!!」
とばかりに、愛想良くしています。
勿論、嘘ではありません。
実際、非常に美味しいのです。
でも本心は、ただ訪れて、食って、支払って、帰りたいのです。

当然、店員さんと僕の距離は、どんどん縮まっていきます。
ここ半年は、注文した料理に、
「良かったらどうぞ!」
と小鉢が一つ、必ずサービスされるように。
この間などは、
「まかないで作ってみたんですけど、よければ!」
とカレーが一皿付いてきました。
注文した焼き魚定食とは別に……です。
ちなみに定食の内訳は、漬物や煮物などの小鉢が2つに、サラダ、ご飯(お代わり自由)、焼いた鯖一尾にもり蕎麦一人前。
そこにカレーとなると流石にキツイのですが、
「えっ!? うわー……本当に良いんですか?」
などとしっかり喜びのリアクションを取りながら、
「有難うございます! うわっ、おいしぃぃぃー!!」
と頂戴する他、道はないのです。
たとえ、その後の仕事に差し支えるほど腹パンパンになろうとも、ご厚意、善意のものを、無下に断る度胸など無いからです。
先日店を訪れた際、遂に……僕がいつも座るカウンターの端の席に、『Reserved(予約済)』と書かれたプレートが置かれていました。
もうプレッシャーで圧し潰されそうです。
いや、有難い話。
誰も悪くなどありませんし、おかしな物言いですが、自業自得です。
要するに、"ざっくばらん"にも弊害はあるということなのです。

話を戻しましょう。
現実問題、会社や学校で、誰もが「ありのままの自分」、「素顔のままの私」で振舞おうとすれば、周囲は鬱陶しいことこの上ない。
ただの迷惑。
誰かの"ありのまま"が、他の誰かの"ありのまま"とかち合うこともあるでしょう。
一見"ざっくばらん"に思える同僚達は、"素"ではなく、そう"演じている"だけかもしれませんし、和気あいあいとした雰囲気とは裏腹に、実際の心の距離は遠く離れている……なんてことも十分に考えられる。
いずれにしても、人との距離を詰めるということには、リスクが付き物。
何より、唐突なキャラチェンジは、"ざっくばらん"に言うなら、職場の空気を「変な感じ」にします。
ぜひ、慎重に行動して下さい。

山田ルイ53世●お笑いコンビ、髭男爵のツッコミ担当。本名、山田順三。幼い頃から秀才で兵庫県の名門中学に進学するも、引きこもりとなり、大検合格を経て愛媛大学に進学。その後中退し、芸人へ。著書に『ヒキコモリ漂流記』(マガジンハウス)、『一発屋芸人列伝』(新潮社)、近著に『一発屋芸人の不本意な日常』(朝日新聞出版)。
⇒ 公式ブログ

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