くらし

川端文学に新風を吹き込む、 バッドガール加賀まりこの真骨頂!『美しさと哀しみと』│山内マリコ「銀幕女優レトロスペクティブ」

『美しさと哀しみと』。1965年公開の松竹作品。DVDあり(販売元・松竹)

加賀まりこといえば『月曜日のユカ』! 空前絶後のコケットリーな魅力で、’90年代にリバイバルブームが起こった元祖“小悪魔”映画ですが、その翌年1965年(昭和40年)公開の篠田正浩監督作『美しさと哀しみと』も、加賀まりこの恐るべき美貌あってこその隠れた名画。原作は川端康成です。

北鎌倉に住む作家(山村聰)は約20年前、妻子がありながら16歳の音子(八千草薫)と不倫。音子との間に授かった子が、出産後すぐに亡くなった過去がある。いまは京都で暮らし、日本画家として成功した音子。独身を貫いている彼女は、けい子(加賀まりこ)という内弟子と共に暮らしていた。ある年の暮れ、作家は「京都で除夜の鐘が聞きたい」と思い立ち、大晦日に音子を訪ねる。

昔の不倫相手が大晦日にいきなり訪ねてきて「鐘が聞きたい」とはなんちゅう迷惑な! 粋と言えば聞こえはいいけれど、超ド天然な身勝手なふるまいに怒り心頭の驚愕のオープニングです。そもそもこの作家、16歳の娘を妊娠させただけでなく、それをネタにした小説の清書を元タイピストの妻にやらせるなど鬼畜エピソードがてんこ盛り。そんな罪深い男に強烈な復讐心をたぎらせているのが、音子を同性愛的に愛するけい子なのです。

音子が止めるのも聞かず、作家やその息子に接触し、人を狂わす可愛らしさで翻弄。最後にはとんでもないことをやらかす悪魔めいたこの役は、たしかに加賀まりこにしか演じられない! 純和風に作り込まれた耽美な画面に一人だけ世界観が違う加賀まりこの存在は、不協和音のような作用をして、最後には映画を丸ごと乗っ取ります。

明るく清純という、若い娘に押し付けられがちなヒロイン像を拒否し、くせ者のバッドガール一筋に演じてきた加賀まりこ。その真骨頂ともいえる作品です。「まりこに滅茶苦茶にされたい!」という倒錯した願望が満たされてか、川端康成もこのキャスティングにはたいそうご満悦だったそう。

山内マリコ(やまうち・まりこ)●作家。映画化した『ここは退屈迎えに来て』が現在公開中。新刊『選んだ孤独はよい孤独』。

『クロワッサン』991号より

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