昔の不倫相手が大晦日にいきなり訪ねてきて「鐘が聞きたい」とはなんちゅう迷惑な! 粋と言えば聞こえはいいけれど、超ド天然な身勝手なふるまいに怒り心頭の驚愕のオープニングです。そもそもこの作家、16歳の娘を妊娠させただけでなく、それをネタにした小説の清書を元タイピストの妻にやらせるなど鬼畜エピソードがてんこ盛り。そんな罪深い男に強烈な復讐心をたぎらせているのが、音子を同性愛的に愛するけい子なのです。
音子が止めるのも聞かず、作家やその息子に接触し、人を狂わす可愛らしさで翻弄。最後にはとんでもないことをやらかす悪魔めいたこの役は、たしかに加賀まりこにしか演じられない! 純和風に作り込まれた耽美な画面に一人だけ世界観が違う加賀まりこの存在は、不協和音のような作用をして、最後には映画を丸ごと乗っ取ります。
明るく清純という、若い娘に押し付けられがちなヒロイン像を拒否し、くせ者のバッドガール一筋に演じてきた加賀まりこ。その真骨頂ともいえる作品です。「まりこに滅茶苦茶にされたい!」という倒錯した願望が満たされてか、川端康成もこのキャスティングにはたいそうご満悦だったそう。