くらし

【紫原明子のお悩み相談】育児はもどかしいものなのでしょうか。

『家族無計画』や『りこんのこども』などの著書があるエッセイストの紫原明子さんが読者のお悩みに答える連載。今回は、ちょっと気が弱い小学生の息子の育児に悩む母からの相談です。

<お悩み>
小学生の息子は不器用で強い子のからからかわれやすく、泣いたり怒ったり私の前では喜怒哀楽が激しいです。 男の子だから、強くなってほしいのですが、 うちの子の個性を大事にしたいとも思います。 育児はもどかしいものでしょうか?(相談者:ねこ /女性、パート40代。小学生の息子と娘がおります。 )

紫原明子さんの回答

ねこさんこんにちは。早速ですが育児、もどかしいものですよねえ。
子どもより何十年か長く生きてる我々は、子どもより少しだけ余計に世の中の道理を知っていて、子どもより少しだけ余計に未来の予測が立てられますからね。そこで舐められないようにしておかないと後でつけこまれるぞとか、今勉強頑張っておくと後が楽だぞとか、そういうの分かってますから。つい、最も平坦そうで、ショートカットになりそうな道を歩かせたくなってしまうものです。でも、子どもの方はそんなこと知らないんで、どれだけ親が説得しても一切聞く耳を持たず、ぐんぐん茨の道へ突き進んだりもする。

ちょっとうちの話も聞いてもらっていいですか? 実はうちの17歳の息子、昨年、通っていた高校を中退したんですよ。なんでもほかにやりたいことがあるそうで、そこに多くの時間がさけるよう、通信制の高校に編入するそうです。
あと1年ちょっとで卒業だよってことも、学校に拘束される時間が少なくなるからといって決して楽になるとは限らないことも、全日制の学校に通っているから出来ることも色々あるだろうということも、そりゃあもう再三にわたって話して聞かせました。高校の担任の先生もとても親身になってくださり、何度か面談の機会も作っていただきました。だけどあるとき先生の話を神妙なかおをして聞く息子を見ていると、はい、はいと過不足なく繰り出す綺麗な返事に、まるで心がのっていないことが分かってしまったんです。内心では、まるで考えを変える気がないのだろうな、ということが、一目瞭然だったんです。

帰りの車の中で「あんた、どんな気持ちで先生の話聞いてたの」と尋ねると「あの先生はいい先生なんだよ。先生にも先生の立場があるから、こう言うしかないよなって」と。大人の立場まで思いやる余裕を持っても尚そうせざるを得ないというのだから、これはもう、やりたいようにさせるしかないのだと思わされてしまったんです。

これから先息子がどうなるか全然わからないけれど、それでも今のところ私は、これはこれで悪くない決断だったと思っているんです。というのも、私のこれまでの育児を振り返ったとき、一つだけ大きく反省しているのが、子どもたちの欲望の芽を、あまり大切に扱ってこられなかったな、ということなのです。私は19歳で出産した若い母親だったので「親が若いから子どもがこうなんだよ」と後ろ指さされないように、言ってしまえば私のメンツのために、世間に過剰に気を使っていました。特に子どもたちが幼い頃は、人に決して迷惑をかけることのないよう、あれもダメ、これもダメと、子どもたちに沢山言いました。でも今思えば、幼いながらに興味や好奇心をかきたてられてやろうとしたことを、もっともっとやらせてあげれば良かった。子どもが手を伸ばすことも、関心を向けることも、私が考えていた以上に、とても大事なことだったんだなと、今となってはつくづく思うんです。

何しろ今、これだけ社会が豊かになり、モノや情報、体験へのアクセスが非常に手軽になっています。社会の人権意識も少しずつ高まっていて、性別や年齢にとらわれることなく、自分が生きたいように生きられる社会に変わりつつあります。男に生まれたから家族を養わなければならないとか、女に生まれたからお母さんにならなくてはならないとか、そんなふうに本人が望まずして与えられた条件をもとに、生き方をある程度規定してくれる、ある意味で親切な時代というのは、いよいよ終わろうとしています。何をするのも自由、どんなふうに生きるのも自由、ということになったとき、一番大事なことは自分がどうしたいのか、自分の欲望の形を知っていることです。これからやってくる社会は、これができる人にとってはとっても生きやすい社会。でも、これができない人にとっては、途方に暮れるしかない、とても厳しい社会なのです。
だから今回、息子が自分で自分に必要だと思うこと、やりたいことを選択し、その主張を貫いてくれたことに、私は内心少しホッとしたんです。

息子さんは不器用なお子さんだということで、親御さんはさぞ不安も大きいことかと思います。でも、不器用だって、上記のような理由から、決して悪いことばかりではないようにも思います。何しろ不器用な子は、生きやすくなるために、少しでもうまくやれる方法を見出さなくてはなりません。どの環境にも器用に適応できないのなら、そんな自分でも生きられる場所を探して、放浪しなければならないかもしれません。経験も乏しく、簡単に身を置く環境を変えることの難しい子供時代は、もしかしたら沢山苦労するかもしれません。でも、その苦労はきっと、大人になっていきると私は思うんです。最初から器用に生まれていれば必要のなかった自分との対峙、自分自身の発掘作業を積み重ねているからこそ、大人になって、このだだっ広い社会の中でも、自分の居心地の良い場所、向かうべき場所を、見つけ出しやすいだろうと思うんです。

強くあってほしいというねこさんのお気持ちもとてもよく分かります。であればこそ、まずはお子さんが何を望んでいるのかを確認するための働きかけをされてみるのはどうでしょうか。強い子にからかわれたらどう感じるのか。自分はそれに対してどう思い、どうしたいのか……もちろん、どうしたいのか、なんて聞かれても答えられないと思います。大人にだって難しいことです。でも、決して答えを急かす必要もないし、もっといえば、答えを出さなくたっていいと思うんです。ただ問いを投げかけ、本人が自分で、自分の欲望を発掘していくための手助けをする。そういう関わりが、時間をかけて少しずつ、お子さんが生きていく上での軸みたいなものを、強くしていってくれるのではないかと思うのです。

……と、いくら頭で分かっていても、綺麗な言葉でまとめてみても、子どもを前にするととても理屈じゃないんですよねえ。うちの娘も極度に不器用なんです。それで、幼い頃はよく馬鹿にされたり、からかわれたりなんかもして、私もその都度「なんで言い返さないんだ!」と檄を飛ばし、挙げ句「せーの、バカ!」と壁を相手に言い返す練習をしたりしてましたもん。大真面目にやってるほうがバカみたいですね。

まあそんなこんなでホント、育児はもどかしいものです。でも、頑張っていきましょうね、お互いに!

紫原明子さんへのお悩み相談はこちらから!

イラスト:わかる

紫原明子● 1982年、福岡県生まれ。個人ブログが話題になり、数々のウェブ媒体などに寄稿。2人の子と暮らすシングルマザーでもある。Twitter

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