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鈴木清順ワールド全開、 覚悟して観よう!『ツィゴイネルワイゼン』│山内マリコ「銀幕女優レトロスペクティブ」

『ツィゴイネルワイゼン』。1980年公開の作品。DVDあり(販売元・パイオニアLDC)

一昨年、93歳で他界した鈴木清順監督。1950年代半ばに監督デビューし作品を量産していましたが、カルトな作風のせいで所属していた日活とトラブルが発生、’70年前後の約10年間、映画界から離れていました。

ようやく復帰した第2作が、1980年(昭和55年)に発表したこの『ツィゴイネルワイゼン』。キネマ旬報ベストワンを皮切りに高い評価を獲得し、翌年には松田優作で『陽炎座』、1991年(平成3年)に沢田研二で『夢二』を撮り、“大正浪漫三部作”を完成。国際的な人気を獲得します。

デカダンに生きる原田芳雄とその妻(一人二役)の大谷直子、教授らしくインテリ然とした藤田敏八とその妻、大楠道代。男同士の友情を軸に、ヴァイオリニスト、サラサーテの奏でる「ツィゴイネルワイゼン」のレコードをめぐって繰り広げられる、悪い夢でも見ているような2時間24分の奇譚。

本作のスターはなんといっても、怪人めいた容貌で死の匂いを放ちまくる、腰が砕けそうにセクシーな原田芳雄ですが、そこに絡んでくる女たちの、蠱惑的な美しさあってこそ! ヒロインを演じる大谷直子の、清らかなのにどこか不穏な存在感もさることながら、大正浪漫三部作すべてに出演することになる大楠道代のハマり具合が画面の決め手になっています。若い頃から『痴人の愛』でナオミ役を演じるなど怪しげな色気が持ち味の女優でしたが、34歳で出演した本作で見せた、強烈なまでにデカダンな佇まいには圧倒されます。

モガ風のボブカット、囲み目メイクと赤い口紅。洋装も素敵ですが、とりわけ着物が似合う! 映画の後半、出番が増えるに従ってお召替えも多くなり、しかもどんどんコーディネートにも気合いが入って、道代の着物ショー状態に。とにかく、大楠道代を拝むだけでも観る価値アリです。鈴木清順の美学に徹頭徹尾貫かれた作品ゆえ、ものすごい毒気にあてられることを覚悟しつつ、ぜひ!

山内マリコ(やまうち・まりこ)●作家。映画化した『ここは退屈迎えに来て』が現在公開中。新刊『選んだ孤独はよい孤独』。

『クロワッサン』989号より

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