くらし

【紫原明子のお悩み相談】彼の酒癖の悪さに結婚を躊躇してしまいます。

『家族無計画』や『りこんのこども』などの著書があるエッセイストの紫原明子さんが読者のお悩みに答える連載。今回は、お酒を飲んでないときはいい人なのに……という彼に関するお悩みです。

<お悩み>
付き合って5年目の彼の酒癖の悪さに結婚を躊躇してしまっています。 ちなみに彼はバツイチ、子持ち(奥さん側にいます)です。
お酒を飲んでいないときは、とても優しくて面白いのですが、夕方になるとイライラし始め、お酒が飲みたくてしょうがない状態になります。そしてお酒を飲むと、口調がきつくなり、冗談で叩いてきたり、戯れてきたりするのですが、その力が強くて、本気で嫌になります。
自分もそろそろいい歳なので、結婚して子供が欲しいなぁとも思うのですが、この状態で踏み切れません。 飲む量を控えたら?と言っても一向に聞き入れてくれません。誰かに指図されるのをとても嫌がります。
何かいい方法はありませんでしょうか。 よろしくお願いします。 (相談者:ターボ /女性、企業で研究職をしている36歳の会社員です。 )

紫原明子さんの回答

ターボさんこんにちは。
お酒を飲まずにいられないし飲む量を控えられない、さらには誰かに指図されるのを嫌う……。今の彼と結婚されると、たしかにその後とても大変そうです。

素人の所感で恐縮ですが、彼にはアルコール依存症の可能性も考えられるのではないでしょうか。この程度は病気じゃない、と感じられるかもしれませんが、多くの人が最初はそう思うと思うんです。こんなのはよくあること、まだ許容範囲だろうと。でもあらゆる依存症ってそんな風に、ある日を境に明確な症状が出るものでなく、本人の認識でも、周囲の目から見ても、日々少しずつグラデーションで強まっていくからこそ怖いものだと思います。周りも慣れてしまうから、おかしなことに気が付きません。でも、飲みたくてイライラしたり、冗談でもターボさんを叩いたり、力をコントロールできなくなったりするというのは、やはり“嗜む程度”の範疇を越えているのではないかと心配です。もしも杞憂であれば「良かったね」で済む話なので、彼には一度、病院で診察を受けてもらった方がいいと思います。ターボさんの将来だけでなく、彼の健康や命に関わることでもあります。私なら「病院に行かないなら別れる」もしくは「断酒をしないなら別れる」と、今後の関係を天秤にかける切り札を使います。それだけの価値も十分にあると思います。

私の友人のお父さんは、普段はとても良い人なのに、お酒を飲むと暴れて、しばしばお母さんに暴力をふるっていたそうです。友人はそのせいで幼少期、祖父母の家で暮らすことを余儀なくされた時期もあったといいます。お父さんも怖かったけれど、そんなお父さんにすがらなければ生きていけないお母さんのようにも絶対になりたくなかった、だから勉強して、いい仕事に就いて、一人でだって生きていけるようにならなきゃいけないと思った、友人はそんなふうに言います。決して望ましいとは言えない養育環境が、幸か不幸か、彼女に地に足のついた人生観を身に着けさせた一方で、彼女は日常的に、過剰に人の顔色を窺ってしまい、言いたいことを飲み込んでしまうことにも葛藤を抱えています。そしてその原因はやはり、酒を飲んで暴れる父との関係の中にあると、彼女は考えています。

子どもを持ったとして、子どもは親の傲慢さも、親の我慢も、親の依存も、全部、見抜いてしまいます。お酒を飲んだ彼の振る舞いを、大人であり、なおかつ最も身近な恋人であるターボさんが本気で嫌だと思うのだから、体の小さい子どもならばなおのこと怖いと感じるはずです。またアルコール依存症によるさまざまな症状は放っておけばエスカレートしていかないとも言い切れません。今は冗談で叩いている程度かもしれませんが、これからそれがひどくなって、暴力になるかもしれません。ですからやはり、子どもを持つ前に、彼にはなんとしても、今のお酒の飲み方を改めてもらう必要があるのだろうと私は思います。

お酒を飲んでいないときは、きっととても素敵な彼なのですよね。そんな彼を失うというのは、とてもつらいことだと思います。彼にとってもまた、ターボさんを失うことは、身を削られるほどつらいことでしょう。でも、だからこそターボさんだけが、今の彼をギリギリのところで動かし得る力を持っている存在かもしれません。病院に行かないなら別れると切り出したとして、彼の状態や決断次第では、彼を失うことになるかもしれません。けれども逆に、ターボさんのその覚悟をもってしても、病院にかかるというただそれだけのことを彼がしないのであれば、今後夫婦として共に生きていくべき理由は果たして本当にあるのでしょうか。お酒を飲んだ際の彼の振る舞いによって、ターボさんは日常的に嫌な思いを重ねていて、けれども彼はそれに対処しようとしない。こういった不誠実さはもとより、お互いの将来や健康にも関わり得る問題で、相手の言葉に聞く耳を持たない人と、夫婦となり、家族になったとしても、その先はほぼ確実に茨の道です。もちろん、あらゆる困難を排除した人生を送ることだけが正解とも思いませんので、この先は茨の道ですよ! とどこかの誰かが言った道をあえて選ぶという生き方だって、それはそれで選択の一つだとも思います。

だけど少なくとも私は、こうして袖振り合うご縁をいただけたターボさんが、今後少しでも大きな幸せを手にされることを心から願っています。嫌なことを嫌だといえばちゃんとそれが排除される、安心を決して脅かされない環境で生活を営まれることを、心から願っています。

イラスト:わかる

紫原明子● 1982年、福岡県生まれ。個人ブログが話題になり、数々のウェブ媒体などに寄稿。2人の子と暮らすシングルマザーでもある。Twitter

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