くらし

心を動かす歌声の裏にあった、一人の女性としてのやさしさ。映画『私は、マリア・カラス』

  • 文・知井恵理
自身のキャリアや私生活について語ったNYでのインタビューが47年ぶりに公開。(C)2017-Elphant Doc-Petit Dragon-Unbeldi Productions - France 3 Cinma

「20世紀最高のソプラノ」と称されつつも波瀾万丈の人生を歩んだオペラ歌手、マリア・カラス。彼女を題材にした映画は数あるが、まもなく公開の本作では、これまで封印されてきた自叙伝や手紙、未公開の映像などを解禁。彼女自身の声と言葉だけで、“知られざるマリア・カラス”が語られている。

「歌声も雰囲気も強い女性というイメージでしたが、実際は情熱的ながら繊細でやさしい女性だったのだと感じました」と語るのは、シンガー&ピアニストの村上ゆきさん。

作中では、ローマ歌劇場での突然の降板劇や、メトロポリタン歌劇場との契約破棄といった“スキャンダルの真実”にも触れている。

愛するアリストテレス・オナシスとのプライベート旅行にて。穏やかな表情が印象的。

「国賓が臨席するローマ歌劇場での開幕が迫るなかで声が出ないということに、どれだけ恐怖を感じたか。同じ歌い手として、彼女の苦しみが手に取るように伝わってきました」

海運王アリストテレス・オナシスとの恋愛でプライベートを充実させたかと思いきや、ほどなく裏切られ、マリアは友人への手紙で苦悩を綴る。

「女性としての幸せをつかめなかったことで、結果的に『音楽あってこその人生』という運命を受け入れるようになる。そんな彼女の歌声だから、世界中の人々の魂を揺さぶるのだとも思います。どこか美空ひばりさんを彷彿させますが、神様に選ばれた歌姫の宿命なのかもしれません」

人生の苦しみを背負うことで、天性の才能に磨きがかかる。それは歌い手として幸せなことなのか?

自宅での貴重な一枚。最後まで舞台復帰をあきらめず、トレーニングを続けていた。

「どうなんでしょうね……。ただ、苦しみを経験したからこそ届くもの、伝わるものがあると思います。歌うということは、自分をさらけ出すこと。とても怖いことですが、カラスは逃げ出さずに立ち向かっていった。彼女の魅力は、ベルカント唱法(イタリアオペラにおける伝統的な声楽発声法)という高度な技術だけではなく、自身をさらけ出しながら全情熱を注いで歌うこと。だからこそ、耳を傾けずにいられないのだと思います」

その奇跡の歌声を存分に堪能できるのも本作の魅力。村上さんのおすすめの楽曲は?

「やはり、カラスの真骨頂といえる『ノルマ』の“清らかな女神よ”や、“私のお父さん”ですね。バックコーラス隊の表情にも注目してみてください。マリアを垂涎の目で見ていて(笑)、いかに彼女と同じ舞台に立つことを誇りに思っていたかが垣間見えますよ」

『私は、マリア・カラス』
世界初公開の自叙伝やプライベートの手紙などで、伝説的オペラ歌手、マリア・カラスの姿を描いたドキュメンタリー映画。本人による歌唱映像も多数収録。12月21日より東京・TOHOシネマズシャンテほか全国順次公開。

村上ゆきさん
むらかみ・ゆき シンガー&ピアニスト
たおやかで透き通った“ヘブンズ・ボイス”がCMやライブで評判に。TBSラジオ『村上ゆきのスローリビング』に出演中。

 

『クロワッサン』987号より

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