『生きるように働く』著者、ナカムラケンタさんインタビュー。「自分と向き合うきっかけになれば」
福利厚生や給与などの条件だけを載せるのではなく、実際に職場を訪ねて取材し、良いところも悪いところも紹介する。“会社や働く人々をありのままに伝える”「日本仕事百貨」は毎月10万人が閲覧する求人サイトだ。創設者であるナカムラケンタさんがその体験などをまとめ、初の著書を出版した。
撮影・黒川ひろみ
「この10年間で出会った人を通して、僕が感じたことをきちんと自分の言葉で伝えたかったんです」
ナカムラさんが「日本仕事百貨」を作るまでの話や、取材などを通して出会った、生き生きと働く人人が描かれている。登場するのは、建築家やファッションクリエイターなど20名以上の人々だ。
「彼らは自分がこうありたいと思う姿を職業を通して形にしてきた人たち。自分の好きなように生きている人ばかりです。面白いと思ったら、計画を立てずに事業を始めてしまう硝子店の社長。商品を作って終わるのではなく、それを買ったお客さんの未来まで考える文房具店主。いろいろな人の生き方や働き方を見つめることで、自然と自分を見つめ直せるのではないでしょうか。ある種、鏡のような本になっているかと思います」
誰かのために頑張ってきた人に 読んでほしいと思います。
「この本は、“今まで誰かのために一生懸命生きてきた人”にこそ読んでほしいんです。例えば組織の中で奮闘してきた人とか、家族のために尽くしてきた人とか。肩こりって慢性的になると凝っていることに気付かなくなりますよね。それと一緒で、誰かのために生きてきた人ってそれが当たり前になると、本当はこうしたいっていう自分の思いに気付けなくなる。だから、たまには自分の本音と向き合う機会が必要。この本はそういう凝りをほぐしてくれる。結果として、今の自分自身を肯定することにつながればいいなと思います」
自分が本当にやりたいことを“まずはやってみる”というのが、ナカムラさんの生きる姿勢だ。求人サイトを立ち上げたものの、人材業界での経験は全くなかったという。
「もちろん失敗もするけど、やらないで後悔するよりはやったほうがいい。大体最後はなんとかなる。でも、足がすくんで無難なほうを選び続けると、段々自分が望む状況じゃなくなってくる。始めたあとが本当のスタートだと思います」
本作は、取り掛かってから5年近くと、“難産”の末に完成した。
「書いては直し、最初から、を何度も繰り返しました。頭の中のイメージはあったけど、多くの人との出会いを、一本の木のように描くことが大変だった。この本は僕自身。可愛いなんてもんじゃない」
オンライン上で、本の購入者が集う場を作るという新たな試みも。
「感想や意見も含めてこの本だと思っているので、全部目を通しています。オンライン組織のイベントでは、年代も性別も異なる読者同士で、仕事や働き方についての活発な議論も生まれています。これからは、“生きる”と“働く”がもっと切り離せなくなるのでは」
『クロワッサン』986号より