『東京どこに住む? 住所格差と人生格差』速水健朗さん|本を読んで、会いたくなって。
食をきっかけに、東京が変わっていく。
撮影・森山祐子
先に断わっておくと、この『東京どこに住む?』は、東京で家を探す人のためのガイド本ではない。ここ数年の東京の変化から、いまどきの〝住みたい街〟とは?そして、人は何を基準に住む場所を決めるのか?と、私たちの思想の奥深くにまで迫った一冊だ。
「僕はもともと、下北沢とか目黒とか東京の西側に住んでいた人間ですが、約10年前に、文京区に引っ越したんです。遊ぶ場所も新宿や渋谷から、銀座や上野など中央から東側に移り、都市への見方も変わってきました」
と速水健朗さん。それが、本の構想にも繋がったという。
「周りを見ても、多くの人が、吉祥寺や自由が丘に代表される郊外の人気の街以外を、住む場所に選び始めている。その背景にある、いわゆる〝住みたい街ランキング〟ではない新しい住む場所選びのあり方や、いまどきの引っ越し理由を探ったのがこの本です」
東京の中央及びちょっと東の発展とともに、この都市の住む場所事情はかつての“西高東低”(人気も家賃も西が高い)から“都心回帰”に変わりつつある、との分析から本書はスタートする。
「フィールドワークと称して東京を飲み歩いていると、都心に夜遊びできる飲食店が増えたな、とか、都心の住宅街を中心にバルブームが広がっているとか、小さな変化に気づくんです。〝都心回帰〟に着目したのはそこから。食をきっかけに都市自体が変わってきている、という感覚が出発点でした」
日本橋人形町に谷根千、蔵前、北千住——。近ごろ人気のエリアを例に挙げながら、考察は進む。
「これらの街の共通点は、商店街や横丁、下町の風情、若い店主のいる個人店などがあること。いま住みたい街に求められるのは、“食と住の近接”そして“地元に根付いて暮らす感覚”のようです」
さらに、引っ越しの実例をその経緯とともに取材した章では、その人の思想が垣間見える。郊外にマイホームを買ったけれど通勤が苦痛で都心に引っ越した人、地方移住に失敗した人、成功した人。
「住む場所が人生を大きく左右してしまう、というのはなかなか衝撃的でした。一方で、日本人は一生の間で引っ越しをする〝生涯移動回数〟が平均的に少ないと本書にも書きましたが、意思を持って引っ越しをした人のほうが、留まっている人よりも人生を有利に変化させられるとも感じますね」
どこに住みたいかを考えることは、どう生きたいかを考えることかもしれない。これを機に、真剣に向き合ってみては。
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