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上へ上へとのびてきたものに、人間が手を加えて横の美を与えようとする。人間とタケとの戦いです――T・Kさん(出版社勤務)

1977年創刊、40年以上の歴史がある雑誌『クロワッサン』のバックナンバーから、いまも心に響く「くらしの名言」をお届けする連載。今回は、コレクターの言葉から、竹の工芸品の魅力を味わいましょう。

文・澁川祐子

1978年2月号「私の蒐集品[竹の茶道具]」より
1978年2月号「私の蒐集品[竹の茶道具]」より

上へ上へとのびてきたものに、人間が手を加えて横の美を与えようとする。人間とタケとの戦いです――T・Kさん(出版社勤務)

読者が自分のコレクションを披露する「私の蒐集品」コーナー。今回は、竹の茶道具を集めている京都在住のコレクターさんが登場です。

陶芸をやるなかで茶道に興味をもち、竹でつくられた茶道具にふれて、その魅力にはまったとのこと。何年もかけてのび続けた竹は、細工師の手によって切られますが、そのときから<強烈な個性を持つ第二の美へと変貌する>と熱く語ります。

<タケはあくまで妥協を許しません。そして、気に入らないと自らひびを入れるんです。そんな性質や過程を知った上で、完成した竹芸のひとつひとつを眺めていると、その美しさにひきこまれてしまいます>

竹芸に使われるのは、ほとんどが孟宗竹。細工師は土ごと根から掘り起こし、そのまま十年寝かしておく。さらにできあがった作品を10年そのままで保存。竹はまだ生きており、そうしないと割れや歪みが生じてしまうからだといいます。

何十年もかけて育ち、さらに気の遠くなるような年月と細工師の熟練技を経て、やっと手もとにやってきた道具。それをまた長い時間をかけて使い込んでいく楽しみ。単にものとしてだけではなく、そこに費やされた時間をもこのコレクターさんはいとおしんでいるのです。

写真には、水指や花入れ、茶杓などの茶道具のみならず、孫の手や耳かきもあり、竹への愛はとどまるところ知らず。ひとつの素材にとことん惚れ込んでいる姿が伝わってくる良記事でした。

※肩書きは雑誌掲載時のものです。

澁川祐子(しぶかわゆうこ)●食や工芸を中心に執筆、編集。著書に『オムライスの秘密 メロンパンの謎』(新潮文庫)、編著に『スリップウェア』(誠文堂新光社)など。

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