くらし

『凡人の怪談 不思議がひょんと現れて』著者、工藤美代子さんインタビュー。「私の周りでときどき起こる不思議なこと」

雑誌『婦人公論』での連載46話をまとめたエッセイ。表紙は仏在住の新進画家、長谷川カミーユ・彩瑛さん描き下ろし。中央公論新社 1,300円

「とても平凡な暮らしの中で、ちょっとだけ変なことを体験する。それを書き止めてみたかった」と、あとがきにあるとおり、工藤美代子さんが日常で出合った“不思議”が詰まった一冊だ。それは時に切なく、時に恐ろしく。1話ずつに異なる趣の“不思議”が語られている。

くどう・みよこ●1950年、東京生まれ。’73年カナダに移住、’92年に帰国。『工藤写真館の昭和』で講談社ノンフィクション賞受賞。著書に『悪名の棺』『美智子皇后の真実』『怖い顔の話』『もしもノンフィクション作家がお化けに出会ったら』など。

撮影・黒川ひろみ

それを「ゆるい怪談でしょ」と笑う工藤さん。確かに、語り口はあくまでユーモラス。それに安心して身を委ね読み進んでいくと、後からぞわりと背筋にくる怖さに襲われる、そんな不思議も。

大阪万博にまつわる話にはぞっとしました、と水を向けると「あれは怖かった!」と、工藤さん。

「あの幽霊は怖かったですね。真っ赤なオーバーコートを着て歩いているんですよ、ハイヒールはいて。その音がこつこつ響いてて」

当時万博でアルバイトをしていた工藤さんが、開催前にとあるパビリオンで、ちらりと半身だけ見かけた女性がいた。赤いコート姿だった。それがこの世の人でなかったと知るのは、閉幕して半年も過ぎたころ。ばったり出会った万博関係の友人と思い出話をしていると、件のパビリオン内で赤いコートの幽霊が噂になっていたと聞かされる。初めて「ああ、あの人が」と思い当たった。工藤さんには半身しか見えなかったが、実は幽霊には首がなかったそうだ。

本で語られたのちもまた、 不思議の数々は続いて。

工藤さんが暮らしの中で遭遇する不思議は、今も続く。本書でもマンションへの引っ越しを考えていた際に下見した物件での怖い体験が語られていたが……。

「その後、実際に引っ越したマンションではそれこそ不思議なことがてんこ盛りで。毎晩12時になると、ちーんちーんとおりんの音が必ず聞こえてくるんです。おまけに人が夜中うろうろ歩きまわる気配がする。で、夫に『夜中になんで歩きまわってるのよ』と尋ねたら、『手洗いにも起きてない』と」

ほかにも、おかしな電話が度々かかってくる。知らない声の主から「約束の物ができあがったから届けに行く」とか、借りたこともない図書館から「期限切れの本を返却してほしい」などと言われるが、どれも覚えがない。しかも相手は「工藤さんのお宅でしょうか?」とまず念押しするのだという。あまりの不可解さに、かけてくるのはあの世の人たちなのでは、と疑ったという。結局、わずか5カ月でマンションを出ることとなった。

「平成が終わるという節目の年に、こんな出来事があったと書き留めておくのは、おもしろい記録になるのではという気がするんですよね。そういう意味では、起きたことは逐一書いておきたいな、と」

本の中では、高校時代や大阪万博の頃、在住したカナダや旅先のソウルと、さまざまな年代、場所での出来事が記されている。それぞれに背景としての時代を感じさせるのも、また興味深い。

「だけど、平成30年でまだ現役のお化けが出てくる、これはちょっと予想外だったんですけどね」

『クロワッサン』983号より

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