日本人の私がフランスの 子供から受けた恩恵。│束芋「絵に描いた牡丹餅に触りたい」
フランスにおける少子化対策の成功は、多くの人が知るところだろう。調べてみたら、子供を産めば産むほど有利な制度になっていて、「お金がない」という理由で産まない選択をしないようにできている。国全体で子供を育てるという意識があり、素晴らしいことだと思うけれど、同時に、子供を持たない人からは文句が出そうなくらいだ。けれど、そんな考えもパリに来て間も無く打ち消されることとなる。
フランスに住む友人家族と旅行に行くことになった。友人の誘い文句は「うちはちびっこがいるので、みんなで旅行に行こう!」というもの。友人の子供は未就学児で、一緒に旅行をすると大人4人まで交通費が安くなるという。フランスは物価が高く、日々節約しながら生活している身なのに、旅行なんて……と思っていたが、安くなるというなら試してみてもいいかもしれない。
「交通費がこれだけ安くなる」と、友人が提示してくれた金額に納得。数カ月しかフランスにいない外国人の私でさえも、恩恵にあずかれる仕組みだ。子供を持たない私も、他人の子供も国の財産であるということを理解し、彼らを取り囲む環境がよくなればいいという願いは持っている。でも、他人の子供に「あなたのおかげで……」と思ったことはないように思う。フランスにいれば、今、目の前にいる子供のおかげで、その場で恩恵を受けられる。シンプルに直接的に子供の存在そのものが有難いと思える。
日本では、子供の存在を疎ましく思う人もいたり、そんな人たちを気遣ってお母さんが小さくなっていたり、多くの人が子供が原因でモヤモヤしている。フランスのような制度が日本にもあれば、小さい子供がいるお母さんも友人達を誘って、どんどん外に出られるだろうに。「安く旅ができるのはこの子を産んだ私のおかげよ!」と胸を張れるだろうに。
束芋(たばいも)●現代美術家。近況等は https://www.facebook.com/imost
『クロワッサン』983号より