『正しい女たち』著者、千早 茜さんインタビュー。「正しさは、自分で見つけるべきものです。」
撮影・土佐麻理子
千早茜さんの新刊は、“正しさ”を切り口に、女性特有の感情や歪みもからめた6編が収録されている読み応えのある短編集。
なかでも巻頭、女子高の仲良しグループ4人が社会人となった後の微妙な関係を描写し、友人の不倫に介入する「温室の友情」は、後続の短編の端緒となり、千早さんの意図が明快に伝わってくる一編。
「正しさって何かを考えてほしくて書きました。この行動は肯定できないですよね?と。でも一部の人からは“正しい”と。意外でした」
主人公は、親友と思っている友人が陥った不倫から救うため、同時にどこかで自分のために、不倫関係を強引に壊しにかかる。自分に過度の期待を寄せ支配してきた母の姿を自身の中に見出しながら。
「他人の人生に介入するのはだめですよね。母親でもだめだし、他人ももちろんだめなんです」
そして配偶者以外とのセックスを決して認めず、夫婦間の性交には周囲への遠慮もない女性が登場する「偽物のセックス」。
「執筆当時、不倫報道が凄くて。不倫いいねとはならないけど、配偶者としかセックスしないのが“正しい”姿だとしたら、と書いてみたら、凄くいびつで。この女性はかっこいい反面少し怖いですよね。不倫不倫って皆、口々に文句言うけど、正しいセックスってこうなりますがいいですか?って」
今や一億総裁判官、失言、不倫、失態に各々がジャッジを下す時代。
「すごく“正しい”ばやりですよね。でも正しさを追求すると許容力の低い世界になってしまう……」
千早さんが淡々と流麗な文体で描く正しさは問題提起の種であり、読み手は心に刺さったり、ざわついたりしながら、改めてさまざまな正義について考えさせられる。
「正しさって結局あとからわかる。最後に書いた“老い”(タイトル「描かれた若さ」)みたいな、年をとってからやっとわかってくるものだと。人に『これが今の正しいもの』と提示されても必ず反発するはずで、自分で見つけなければいけないものだなって思うんです」
「温室の友情」の行動に対して意外な反応があったことでもわかるように、正しさは価値観の一つだから人によっても年代でも性別によっても全く異なる。犯罪やそれに準ずる法的に「正しくない」ことを行うものにも、その人なりの言い分があるのかもしれない。
「だからもう少し正義をテーマに書きたいと思っています。暴力的なものを描くのも好きなので“悪の正義”も、作品にしたいですね」
文藝春秋 1,500円
『クロワッサン』982号より
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