よく歌い、よく笑い、よく働く 人間讃歌ドキュメンタリー。『あまねき旋律(しらべ)』 | アートとカルチャー | クロワッサン オンライン
くらし

よく歌い、よく笑い、よく働く 人間讃歌ドキュメンタリー。『あまねき旋律(しらべ)』

  • 文・たかのてるこ
収穫シーズンを迎えると、あちこちで歌がこだまする。(C) the u-ra-mi-li project

「地球に、こんな風に、歌いながら暮らしている民族がいるなんて!」

映画を見ながら、世にもチャーミングなナガ族の人たちに会いに行きたくて、居ても立ってもいられない気持ちになってしまう。

インド東北部、ミャンマー国境に近いナガランド州。山奥に切り開かれた、美しい棚田の村に暮らすナガ族の人たち。機械が入りにくい土地ということもあって、彼らは、苗植え、収穫、運搬等を近所の人と協力し合い、すべて手作業で行うのだが、ハードな農作業の間中、いつでもコーラスのように歌っているのだ。

「♪よく働き よく休む〜」
「♪嫉妬なんて、時間のムダ〜」
「♪あなたと離れると悲しくなる〜」

古来から歌い継がれてきた、収穫の歌、恋愛の歌、友情の歌、村祭りのときには祭りの歌……。まるで、村の中にいくつもコーラス隊があって、ここぞのときには村全体が巨大な合唱団になるような、一体感、ワクワク感、生きる喜びよ!

山の斜面を利用した棚田が美しいインド東北部が舞台。(C) the u-ra-mi-li project

何より、みんなよく働くものの、あくせくした感じがしないのがいい。労働と生活と休憩と娯楽を、きっちり線引きしていないとでも言おうか。

ゆるやかに流れていく時間や、笑みのたえない人びとの顔が、どういうわけか懐かしくて仕方がない。日本で流れる時間が、まだ今みたいに速くなかった頃の記憶が、私の遺伝子に刻まれているせいなんだろうか。

村人全員が知り合いで、農作業はみんなで歌いながら行うのが当たり前で、夕暮れどきには近所の仲間とたわいのないおしゃべり。彼らにとっては、毎日のように繰り返される、なんでもないことなのだろう。でもその、なんでもない営みのひとつひとつが、胸にいちいち響いて、私を狂おしいくらい懐かしい気持ちにさせるのだ。

男女ともに鍬を持っての農作業では、合唱のように歌が広がる。(C) the u-ra-mi-li project

「♪いい仲間がいれば、飢え死にすることはない~」
「♪人生は一度きり~」

「生きる喜び」は、人と関わることでしか得られないことを実感させてくれるナガ族の映画を見終えると、居ても立ってもいられなくなり、私は近所に住む友に会いに行った。「あなたのおかげで、私も生きている」。それはナガ族に限らず、世界中のどんな民族にも共通することなのだ。

たかの・てるこ●65カ国を駆ける旅人、作家。大学の教え子の悩みから生まれた本『生きるって、なに?』を伴って、全国の学校や自治体を講演中。http://www.takanoteruko.com

『あまねき旋律(しらべ)』
インド東北部・ナガランド州で古来より語り継がれた歌を巡る音楽ドキュメンタリー。監督・撮影:アヌシュカ・ミーナクシ、イーシュワル・シュリクマール 10月6日から東京・ポレポレ東中野ほか、全国順次公開。
http://amaneki-shirabe.com

『クロワッサン』981号より

この記事が気に入ったらいいね!&フォローしよう

この記事が気に入ったらいいね!&フォローしよう

SHARE