“椅子の動物園”には パワーが渦巻いていた。│『ブラジル先住民の椅子 野生動物と想像力』展│金井真紀「きょろきょろMUSEUM」
友人宅にソバという名の猫がいる。ソバージュ(仏語で「野性の」の意)から名付けられた。飼い猫のくせにあまりにも野性的で、会う人はみな魅了されてしまう。その友人は農業をしていて、家のまわりは山と田畑だ。ソバはそこをすごい勢いで走り回っている。意気揚々とネズミやヘビを捕まえてくるのは日常茶飯事。時には空中にジャンプしてスズメをパクッ。ブラボー! あぁ、わたしがブラジルの先住民ならば、ソバをかたどった椅子を作るであろう。
アマゾン川やシングー川流域に住む先住民たちは、4000年前から椅子を作っていたらしい。大きな木を切り倒し、丸太から削り出して作る椅子。座るのは長老やシャーマンだ。椅子の多くは動物の形をしていて、座ると動物のパワーがもらえると考えられていた。どれもシンプルで味があって、すごくかわいい!
ジャガー、ワニ、コンドルの椅子に座れば強くなれそう。サルは知恵者って感じ。カメ、アルマジロ、カエルといった不思議な形状の生き物には、きっと不思議な霊力が宿っているに違いない。
なーんて、先住民の気持ちを推し量りつつ椅子見物に興じた。「おぉ……」と思わず唸ったのがエイの椅子。フォルムはかっこいいし、平べったいから座りやすいし、これはいいなぁ。
大自然の中で生きて死ぬ先住民。そこに「人間サマが偉い」なんて不遜な考えは微塵もないんだろうな。わたしが躍動する猫ソバに感動するのも、そのあり方が人間のずっと上をいっている気がするからだ。
金井真紀(かない・まき)●作家、イラストレーター。最新刊『サッカーことばランド』(ころから)が発売中。
『クロワッサン』980号より
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