これは仏教の基本的な考え方に通じるものだ。石井さんは学生時代に仏教を学んでいた。
「万物が時々刻々と変化していくことを刹那滅といいますが、私たちの心身も同様で、そうした事物とお互いに入り組みながら、無数の存在の一つとして成り立っている。たとえばいま私たちの心にあることだって、もしかすると500年前の誰かの胸をよぎった想念かもしれません」
リアルな筆致で描かれる普通ではあり得ないことやもの。それはよくガルシア・マルケスが引き合いに出される、マジックリアリズムと呼ばれる手法に通じるものだ。
「リアルな作品の中に荒唐無稽なものを置く、といういい方がされますが、でもこの世界をありのまま見るなら、本当は辻褄が合わないことだらけで、それこそが実相ではないかと。作品ではそんなことも表現してみたかったです」