くらし

【編集部こぼれ話】草加市立Y塚中学校の思い出。

国語の教科書で出会ったあの作品を大人になって再読してみると……という企画で、光村図書にお邪魔しました。

かつて、実際に使っていたことがあるので、布の背表紙がついた昔のタイプを見せられると、もう何十年も会っていない友達にご対面したような気持ちにかられました。と、来し方を振り返ってみると、自分が出会った国語の先生には癖があるひとが多かったなあ、と。

窓の外でちらちら舞い始めたなと思っていたら、それは見る見るうちに景色を塞ぎ、外が明るくなりました。本格的に降り始めた雪に見とれていて、自分はS先生の質問に答えられなかったのです。S先生がなぜ、習字のときの添削に使う朱色の墨をそのとき持っていたのかはわかりませんが、自分は罰として頬に「私は雪を見ていました」と書かれてしまいました。そしてこれは、“今日帰るまで、落としてはいけない”と。教室のみんなが笑いました。

今であれば××ハラと言われかねない行為ですが、そんなのは楽勝であるところが、昭和という時代のたのもしいところです。自分も先生の言いつけどおりに、その後の授業を受けて、サッカー部の練習もして、そのまま家に帰りました。いつもナイロンのヤッケを着て、厚いレンズの銀縁眼鏡から小さな目を光らせていたS先生は、寡黙で根暗なかんじに笑う人でしたが、自分は不思議と憎んだことがありません。その先生が教え子と結婚をしたらしい、という噂を聞いたのはきっと自分が成人するかしないかの年齢になってからだったと思います。あのシニカルな笑いの意味が何なのか、今ならわかる気がします。今回のこの企画とおなじです。
(編集KH)

S先生、お元気ですか?

『クロワッサン』979号特集「あの本を、もう一度」こぼれ話。

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