くらし

【庭を楽しむ オオニシ恭子さん】野草の逞しい生命力が、私の身体を作ってくれる。

食べ物の持つ力で身体を整える“やまと薬膳”は、土地の風土に合う野草と親しくなることから始まります。
  • 撮影・徳永 彩
朝起きると、真っ先に庭に出て植物たちに声をかけ、深呼吸。「庭は自分と一心同体。なくてはならない存在です」(オオニシさん)

「ほら、ここにヨモギが生えているでしょう。肝機能を整えてくれるから、よもぎ餅にしてよく食べます。こっちのスギナはカルシウムが豊富。天ぷらにするととってもおいしいですよ」
そう言いながら庭を案内してくれたのは、オオニシ恭子さん。奈良・初瀬、長谷寺近くの自宅前には、野草やハーブ、梅や柿の木が生い茂っている。周囲の自然に溶け込んだ、広大な“食べられる庭”だ。オオニシさんはここを拠点に、“やまと薬膳”を発信している。
「薬膳といっても生薬に限らず、自然界の食べ物すべてに薬効があるという考えで、玄米などの穀物と、その土地の風土に合った季節の野菜や野草を中心とした食事法を提案しています」

薬膳料理家 オオニシ恭子さん

食べるものが身体を作る。そう気づいたのは、20代後半で結婚し、毎日の炊事洗濯でひどい手荒れに悩まされていた頃。当時はまだ珍しかったマクロビオティックの食事療法に出合った。
「病院に行っても全然治らなかった手荒れが、食事を変えたら1週間で良くなってしまったんです。マクロビの元祖と言われる先生のもとで勉強するうちにのめり込んで、ついにはヨーロッパで薬膳を教えることになりました」

40歳で夫と渡欧し、ベルギーを拠点にヨーロッパ各地で教室を開いた。その頃から、オオニシさんの暮らしと食は、当たり前のように庭と共にあった。
「全ては賄えなくても、食材はできる限り自分で育てたいという思いがありました。庭仕事なんて初めてで、戸惑いながらもクワを買って土を耕すところから。ヨーロッパのハーブも育てたし、野草の種類も意外と豊富でヨモギやスギナもありました。小豆は庭に撒いておくと芽を出すんだ、とか、自生するゴボウの種をとってきて植えてみよう、とか、試行錯誤の連続でした」

そうして32年の月日をベルギーで過ごし、6年前に帰国。奈良の自宅でも真っ先に庭作りに取りかかった。
「ところが雑草や笹がびっしりと土地を覆っていて、抜いてもすぐ生えてきてしまう。やっとの思いで土を整えても、大木の日陰になって野草がなかなか根付かなかったり、お客さんがハーブを雑草と間違えて踏んでしまったり(笑)。それでも毎日水をやって声をかけていると、草花が一生懸命踏ん張ってくれているみたい。気にかけてあげることが励みになるんだと思います」

古民家を改築した自宅のオープンキッチン。大きな窓からは庭が望め、料理中に気づいたらすぐに食材を採りに出られるようになっている。

ここ1〜2年で植物はだいぶ定着し、種類も増えた。ドクダミやハコベなどを煮出した野草茶に、ルッコラやエゴマを使った春巻き。庭の恵みをふんだんに使ったオオニシさんの料理は、素材そのものの野生的な味と香りが強烈に感じられ、身体に優しく沁み渡る。

「庭の草たちが私の胃袋に収まって、丈夫な身体を作ってくれる。この食生活を始めて40年以上、風邪ひとつひかないし疲れてもすぐに回復します。理想は、山ひとつ分くらいの庭で、身体にいいものばかりを育てることです」

右上から時計回りに、笹、びわの葉、ハコベ、三つ葉、ヨモギ、ドクダミ。生命力の強いヨモギは、初心者が育てるのにもおすすめ。
庭の野草やハーブを使った料理。手前・エゴマの春巻き。水で溶いたグルテン粉を揚げたものと春雨を包み、スイカズラの花と甘夏を添えて。奥・自家製豆腐とバジル、松の実のおやき。
グミの実と野いちごのおやき。どちらも庭で収穫したもの。地粉とベーキングパウダーを混ぜた生地の上に、自家製の梅のジャムを塗った。砂糖を使わない、優しい甘みのデザート。
ドクダミやハコベ、ヨモギなどの野草を煎ったものを煮出して野草茶に。苦味はほとんどない。

オオニシ恭子(おおにし・きょうこ)●薬膳料理家。奈良や東京のほか、各地で“やまと薬膳”の教室を開催。個々の体質や生活に応じた食事法の指導も行う。詳細は、 http://yamatoyakuzen.com 

『クロワッサン』974号より

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