くらし

映画『ラ・チャナ』。彼女の体験を知ることは全女性必見の価値がある。

  • 文・横森理香
映画終盤ではチャナがフラメンコ公演にゲスト出演。圧倒的な踊りを見せる。(C)2016 Noon Films S.L. Radiotelevisin Espaola Bless Bless Productions

フラメンコに興味がない方でも、「女性」である限り、この映画は見る価値がある。私たちが女性として体験してきたことがなんなのか、分かるから。

夫源病という病名があるぐらい、主婦の苦しみは並々ならぬものがあるだろう。年齢が進むにつれ、心身の健康を害するほど。頑固オヤジと化した夫との生活自体ストレスだし、暴言やパワハラもキツイ。独身で働く女性たちもまた、会社や社会でパワハラにあい、苦しんでいる。

結局のところ、日本もいまだ男尊女卑社会であり、女性の苦しみや悲しみは、そこに端を発している。ラ・チャナは世界的フラメンコダンサーでありながら、夫の嫉妬や怒り、家庭内暴力に耐え、その苦しみを「踊り」に昇華させていった。

「踊っているときだけが、自由でいられた」

無心で踊り、リズムと音楽にその身をゆだねる。この時間だけが、「天」と「地」に繋がり、「自分」を取り戻せる、神聖な「場」なのだ。踊りは、浄化、癒しになる。

’70年代にTV番組等で披露したチャナのパフォーマンス(上)も見られる。(C)2016 Noon Films S.L. Radiotelevisin Espaola Bless Bless Productions

私は物書き稼業の運動不足を解消するため三十代でベリーダンスに出会い、その素晴らしさを伝えたくて「ベリーダンス健康法」を教え始めて十年。もはや踊らない日はないぐらいだが、この気持ちは、踊らない人にも、この映画を見れば、理解できると思う。

夫の蒸発後、気のいい魚屋と再婚し、今は幸せに暮らすチャナだが、めくるめく老化との戦いがあった。クロワッサン世代にも多いだろう膝痛、糖尿に、彼女も苦しんでいた。が……。

この映画はまた、精神的な死と再生の物語でもある。私たちがこの先、老化と向き合いつつ、人生をぎりぎりまで謳歌する力を、与えてくれるのである。立って踊れなくなったチャナの、「椅子フラメンコ」は圧巻! そのパッションは、私たちの心を熱くしてくれる。

(C)2016 Noon Films S.L. Radiotelevisión Española Bless Bless Productions

 『ラ・チャナ』
現在71歳、伝説のダンサー、ラ・チャナの人生を描くドキュメンタリー。監督:ルツィア・ストイェヴィッチ、出演:ラ・チャナ、アントニオ・カナーレス、カリメ・アマヤほか。7月21日からヒューマントラストシネマ有楽町、東京・アップリンク渋谷ほか、全国順次公開。

よこもり・りか●作家、エッセイスト。現代女性をリアルに描いた小説、女性を応援するエッセイに定評がある。最新刊『コーネンキなんてこわくない』。
http://yokomori-rika.net

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