鹿児島の風土と人の手間が、麹と玄米を滋味豊かな黒酢に育む。
撮影・清水朝子
いつでも手に取れるところに。意外な黒酢の使い方も。
黒酢の産地・福山の人々は料理だけでなく様々な場面で黒酢を使っている。重久盛一酢醸造場の休憩室を訪ねると、冷蔵庫にはオーソドックスな黒酢から、りんご酢やブルーベリー酢などの果実酢、そして薔薇酢や生姜酢など少し珍しいものまで、ぎっちりと瓶が並んでいる。社員は好きな時に好きなだけ飲むことができる。
「朝と昼の2回、シンプルに炭酸で黒酢を割って飲むのが日課です。少し甘いものが欲しい午後は、りんご酢を牛乳で割ったり……。若手社員は豆乳で割るのが好きみたいですよ。これがなければ夏場の仕事は乗り切れません」(坂元さん)
牛乳や豆乳に黒酢を入れると、酸によるタンパク質の変性が起こり、ヨーグルトドリンクのようなとろっとしたのど越しになる。飲みごたえもあるので、午後のデザートドリンクとしてちょうどいい。
社員をはじめ、福山町の男性がよく飲むのが、焼酎の黒酢割り。
「鹿児島の男性は、仕事を終えるとお湯の入ったポットとグラス、芋焼酎の3点セットで、“ダレヤメ”(鹿児島弁で晩酌)をするのが定番。もちろん私も毎晩です。お湯割りをした焼酎のグラスに、黒酢を加えるだけ。そうすると、少し飲み過ぎたかな、と思っても二日酔いになることがありません」(重久盛一酢醸造場会長・重久盛哉さん)、「山芋を掘る(鹿児島弁でしつこく人に絡む)こともありません」(坂元さん)と男性陣が絶賛する。
さらに驚くのが、盛哉さんの叔母、下野トキエさんの黒酢の使い方。御年87歳! 下野さんは、お酢を飲んだり食べたりするだけではなく、スキンケアにも使っているのだ。
「5合瓶にお酢を100ml、残りは精製水を注ぎ、洗顔後に手に取って顔や首になじませるだけ。10年以上続けています」(下野さん)
誰もが驚く白くてハリのある肌こそが、効果の証明だ。作った化粧水は冷蔵庫で保存することがポイントとのこと。ただし、これは産地ならではの使用法。試すなら、ごく薄い割合から始めていこう。
身体に疲れが溜まったとき、お風呂の湯に黒酢を入れることもあるという。
「黒酢を入れると、お湯が人の肌と同じ弱酸性に。夏の炎天下の仕事で疲れ切った身体を、酢酸とアミノ酸の力が回復させてくれます。ただ、一般的な入浴剤よりもコストがかかるので、ここぞのときの特別ケア。効果は充分にあります」(重久雅志さん)
賞味期限の切れてしまった黒酢の使い方としても、よいかもしれない。そのほかにペットボトルのキャップ1杯ほどの黒酢を水を張った洗面器に入れ、シャンプー後の髪に含ませて、リンス代わりに使うことも。キューティクルを引きしめ、さらさらの髪になる。その際は、さっと洗い流すのを忘れずに。食べたり飲んだりするだけでなく、身体の外側からも黒酢は美と健康をもたらしてくれる。
重久盛一酢醸造場
鹿児島県霧島市福山町福山2246-1 TEL:0995-55-2441
http://osuya.co.jp
通販: http://www.shigehisa-masashi.jp
『クロワッサン』976号より
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