くらし

どの酒器で晩酌しよう? 妄想に酔いしれる……。│金井真紀「きょろきょろMUSEUM」

『酒器の美に酔う』 静嘉堂文庫美術館(東京都世田谷区岡本2-23-1)にて現在は終了。およそ3000年前の中国古代から幕末・明治までの酒器と酒を巡る美術を紹介。また同美術館所蔵の国宝「曜変天目」茶碗も同時公開。電話03-5777-8600(ハローダイヤル) 営業時間10時~16時30分 休日月曜 料金・一般1,000円

美術館に行ったら「自分が買うつもりで見ろ」とは赤瀬川原平さんの教え。わたしはそれをアレンジして「どれかひとつあげる、と言われたらどれをもらおうか」という図々しい観点で鑑賞することにしている。すると毎回、「これ、うちのトイレに飾るといいかも」「うーん、これはもらって帰っても邪魔になるなぁ」なんて、かなり失礼な妄想をしながらウロウロすることになる。

さて今回の展示物は酒器。お酒好きのわたしは、最初から前のめりである。ホームパーティー用の大徳利がいいだろうか、独酌にぴったりの渋いぐいのみにしようか。もらう気まんまんで展示物を物色した。

まず目を引いたのは、明の時代の「酒海壺」。広口の水がめ風で、お酒五升は軽く入りそう。壺のまわりに「清」「香」「美」「酒」の文字が刻まれている。酒の海の壺ってネーミングもいいですなぁ。

江戸時代の酒器も豪華絢爛だ。徳川吉宗が特注した逸品とウワサされる鍋島焼の水注やら、手描きの花模様が華やかな京焼のお銚子やら。こりゃあ、酒がスイスイ進みますよ。さあさあ、もう一献。なーんて、いにしえの酒飲みたちの声が聞こえてくる。あーどれにしよう、迷う!

しかし、そこでわたしはハタと気づいた。こんなお宝で飲んで、果たして気持ちよく酔えるだろうか。倒して割ったり、落として欠けたら、と考えたらヒヤヒヤしてしまう。むう、小心者のわたしには、名品での酒盛りは無理だ。やっぱりコップ酒にしておくか。

金井真紀(かない・まき)●作家、イラストレーター。最新刊『パリのすてきなおじさん』(柏書房)が発売中。

『クロワッサン』975号より

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