『東海仏像めぐり』著者、田中ひろみさんインタビュー。「愛知・岐阜・三重は美仏の宝庫なんです。」
撮影・千田彩子
あでやかな紫のぼかしの着物で現れた田中ひろみさん。半幅帯は、田中さんが描いたイラストの仏像が織り込まれている。裏は蓮の花のリバーシブル。京都・西陣の帯屋さんで販売されているそう。よく見ると金色の帯留も木製の仏像!?
「私が彫りました。こんな小さくても彫るのは大変です。もっと大きな、しかも精巧な仏像を彫る仏師はすごいです」
大阪生まれの田中さんは小さい頃から叔父に連れられて京都や奈良の仏像を見にいっていた。
「でも本当に好きになったのは大人になって久しぶりに京都の三十三間堂の千一体の仏像を見たとき。まさに恋に落ちた瞬間でした」
以来、全国の仏像を夢中で見て回り、そのたび本にまとめてきた。
「100年に1回のご開帳などと聞くと、どんなに遠くても行こうと思うんです。今会いに行かなければ、来世になってしまう(笑)」
仏像といえば、京都と奈良に集中している印象だが、中日文化センターで仏像講座を持つようになり、愛知、岐阜、三重のお寺をあちこち回った田中さん。じつはこの地方はたくさんの美しい仏像の宝庫であることを発見!
「愛知は古くから栄えていたので寺院の数は日本でいちばん多いんです。重要文化財に指定されている仏像もたくさんあります。岐阜は白山信仰が盛んなので、十一面観音や阿弥陀如来の素晴らしいものがあるし、江戸時代の仏師・円空の出身地とされ、円空仏も数多く残されています。三重は、伊勢神宮があるので神仏習合の仏像が充実しています」
本書は、その中から選りすぐった仏像107体を田中さんが温かみのあるイラストに起こし、見逃せないポイントを解説しているので、仏像初心者でもわかりやすい構成になっている。
「私の場合、まずは仏様のお顔をじっくり拝観します。手作りだからみんなお顔が違います。立ったり座ったりいろいろな角度から見るようにしています。不思議なことに、朝と夜では表情が違う、角度や灯明の陰影でも優しそうに見えたり、怒って見えたり。そのときの自分の気持ちによっても違って見えますね」
如来、菩薩など仏様の違いから指のかたち、持ち物が何を表しているかなど基礎的な知識も書かれていて、これを読むだけでも仏像がグッと身近に感じられるはずだ。
「東海地方にはまだまだユニークな仏像があるので第2弾も出したいですね」
ウェッジ 1,300円
『クロワッサン』974号より