白砂糖も添加物も使わない、穏やかな和菓子に込める想い。
撮影・三東サイ 文・大澤千穂
和菓子の常識にとらわれない発想のもとは、幅広い人生経験。
従来の和菓子の常識にとらわれず、身体思いの新しい和菓子を作る。その発想のもとは、幅広い人生経験だ。実はここに至るまで数々の仕事を経験した黒岩さん。広告代理店勤務やフリーライターなどを経て、前職は自然派スキンケアブランド『アヴェダ』のPR担当として10年ほど活躍した。
「アヴェダはブランドの立ち上げから携わりました。PRはもちろん、時には原料の天然成分をたずねて世界の隅隅まで。本当にいろいろな経験をさせてもらいました。反面、多忙な毎日だったので、周りの人は私のことをいつもバタバタしている人だと思っていたみたい(笑)。その時も食には関心があったのですが、なかなか真剣に向き合う時間がとれなかったですね」
夫の死を機に見つめ直した健康の大切さとこれからの道。
そんな忙しい日々の中、黒岩さんの人生を変える出来事が起きた。テレビ局で働く夫が倒れたのだ。
「病名は白血病でした。寝食を忘れるほど番組制作が好きでいつも昼夜逆転。そんな彼だったので身体に負荷がかかっていたんですね。白血病はいわば、血液のがん。それまでも健康診断で貧血を指摘されていたのですが、それほど深刻に考えていませんでした」
お互い仕事を続けつつ、二人三脚での闘病が始まった。西洋医学以外にもできることがあればと食事療法の専門書をひもとき、医療の東西融合を唱えるホリスティック医学の名医を訪ねた。しかしその甲斐もなく、今から8年前に夫はこの世を去った。
「彼に先立たれた喪失感は大きかったです。老後も二人で楽しくやっていくはずだったのに……。まるで人生の計画が総崩れになった気がして」
それからは、心に空いた穴を埋めるように仕事に打ち込む日々。だがかえってストレスがのしかかった。
「もともと低体温ぎみな上、頑張りすぎる性格。さらに更年期障害まで加わって……。私どうなっちゃうんだろうと怖くなってしまいました」
長年勤めた会社をついに辞めることに。夫の死を通して、健康の尊さがわかったからこそ踏みきれた。
「仕事のない私なんて想像できませんでした。でも会社員生活って、いつか終わりがくる。それよりずっと続けられる仕事がしたいと思ったんです」
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