【器好きのいつもの食卓】あらゆる料理を受け止めてくれる南イタリアの古い焼き物。
撮影・徳永 彩
好きでよく使う木の器はしまわず、テーブルの上に。
広々とした細川家のリビングには、存在感のある木の器が置かれていた。そのうちのひとつが、プーリア州の器と並べて、前菜の塩味のビスケットを盛り付けた鉢だ。木をくり出して成形する沖縄の藤本健さんの作品で、自然な木の形や木目、肌合い、色などをそのまま生かすのが特徴。凸凹や穴などもそのままに、樹木の印象を残したプリミティブな雰囲気をたたえている。
「好きでよく使う木の器は、しまわずに出しておきます。そのほうがまめに手に取れるし、乾燥もさせられるので。なにも入れずそのままポンと置いておくこともあるし、拾い集めた石を入れてみることも。食器としても、焼き物の器の中にひとつ入ってくると、ほっとするんですよ」
ただし、細川さんが納得する使い方は限定的だ。まず、漆以外の木の器は、口に付けるのに抵抗があるのだという。
「私が木の器に盛りたいのは、湿気を吸ってほしいもの。焼きたてのスコーンをころころと入れたり、パンを盛ったり。茶系の色合わせもいい。スープやパスタのような料理には使いません」
焼きたてのビスケットはカリッと香ばしく、あとを引くおいしさだった。
食事とともに、食器の組み合わせを楽しむ。
台所の作り付けの大きな食器棚は、ひとつの扉を開けると洋食器が、その隣の扉には日本と中国を中心としたアジアの皿や碗がずらりと。普段使いの器はほぼここにある。使い方も、だいたいパターンが決まっているという細川さんに、中華料理の日と和食の日、それぞれの1人分の食器の組み合わせ例をセットしてもらった。
「中華だったら、たとえば、餃子のたれを入れる小皿と、冷菜の皿と温かい料理用の皿で、銘々皿はこんな感じです。和食なら、味噌汁とごはんと……。我が家の夕飯はさまざまなおかずを大皿に盛り、各自で好きなものを好きなだけ取り分けます。すべての料理を一皿で取り分けるのが厳しそうなら平皿が2枚とか、1枚は小皿でいいなと思うときも。まあ、だいたい4つで1人分のセットが完成です。あとは、食後のお茶をたっぷり飲める大きめの茶碗は欠かせません」
洋食や中華のときは、食器が揃っている美しさを意識する。一方、和食の場合は、なるべく器ごとに質感を変えたり、あえて1点だけ染付を加えたり、組み合わせを楽しんで。
器の肌質と食べものの相性が、うまい使い方のヒントに。
デザートに、細川さんは季節の果物を用意してくれた。それにかけるシロップを作るためにも、お気に入りのガラスの片口を使って。薄切りにした青みかんとグラニュー糖を交互に重ね、しばらく置いてある姿も爽やかで素敵。
「フルーツは洗って、そのままきれいなお皿に盛ればじゅうぶん美しい。熊本はぶどうの種類が豊富なので、今日は4種類を、いちじくや梨と一緒に」
盛り付けたのは、夫の護光さんの作った焼き締めの中鉢。カットしたフルーツを盛り、シロップをまぶすと一段と艶が増して、なんとも大人っぽい。
「焼き締めの器は、ちょっとむずかしいイメージがあるかもしれませんが、意外とこういうビビッドな紫や赤に映えるんです。果物のみずみずしい質感とも、とてもよく引き立てあいます」
器の肌質と食べものとの相性を心得ておくと、器使いがうまくなる。
「釉薬のかかった器のほうが合う料理も多いですが、ナムルや油で蒸し焼きにした野菜のように、料理に艶っとした感じがあるなら、焼き締めの肌がよく合いますよ。でも、それが汁の入ったうどんなら、縁に直接口を付けることになって、ざらつきのある質感が気になります。そんなときは、つるっとした器や、持ち上げやすいもう少し小さな鉢を選びたい。ところが同じ麺でも、中華風の和え麺には、焼き締めの器も向いているんです」
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