【器好きのいつもの食卓】こつこつ集めた作家ものの器に刻まれる家族の歴史。
撮影・徳永 彩 文・嶌 陽子
好きなのは、“使い込んでいくうちに味が出る”器。
きっかけは、瑞弥さんが出合った、一枚の小皿だった。
「結婚して間もない頃、長野県の松本に旅行した時、『ギャルリ灰月』というお店で小皿を見つけたんです。なぜかすごく惹かれて、1枚だけ買いました。それがあるだけで、不思議と毎日が楽しくなったんです」
その小皿が額賀さんの作品だとわかると、ほかにどんな器を作っているのか、興味がわいてきた。それまでは、丈夫さを重視して100円ショップなどで買った食器を使っていた瑞弥さん。少しずつ、夫婦で器のギャラリー巡りをする日々が始まった。
「農作業が終わった後、夫と車に飛び乗って、都内のギャラリーに行って。どんなに田んぼ仕事でヘトヘトになっていても、それが元気の源になりました。私はちょうど嫁に来たばかりで、慣れない環境に戸惑っていた頃。家と田んぼを往復する日々の中、外へ出たいという気持ちと“器”が、重なったんでしょうね」
瑞弥さんが好きなのは、“使い込んでいくうちに味が出る”器。選ぶ時は直感で、ほとんど迷わないが、必ず宏さんに相談し、2人で納得したものだけを買う。当初からの変わらないルールのもと、5人ほどの大好きな作家の作品を中心に、陶器、漆、ガラスなどの器を少しずつ買い集めてきた。ここ数年は、骨董の器にも興味が広がっている。そうやって、だんだん増えていった器は、瑞弥さんの生活に欠かせないものになった。
「もともと家事は苦手だったのですが、器を好きになってから、家のことを楽しめるようになりました。忙しくて食事を作る暇がない時でも、買ってきたお惣菜を好きな器に盛り付けるだけで、気持ちが落ち着くんです」
やがて家族が増え、2人の子どもたちが成長するにつれ、器との付き合い方も少しずつ変わってきたという。
「最初の10年は、できるだけ出かけては、好きな作家の作品を夢中で追いかけていました。でもここ数年は、新しいものをどんどん買うよりも、今持っている器を家で使って楽しみたいという気持ちのほうが大きいですね。子どもたちが学校などで忙しくなり、前より頻繁に出かけられなくなった代わりに、家に人を招いて、料理と器でもてなす楽しさも覚えました」
今年の元日には、夫婦で棚の中にある器を、初めて全て出して洗った。
「すごく気持ちよかったですよ。“この器は、しばらく使っていなかったな”という気づきにもつながりますし。今後も我が家の恒例行事にしたいなと思っています」
お手入れのコツは、とにかくよく乾かすこと。
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