おいしいと言われ続けるために、変わり続けるふりかけの話。
撮影・谷 尚樹 文・野村美丘(photopicnic)
食遺産というと、手間ひまかけた伝統の味が思い浮かぶけれど、長年にわたって日常的に食卓にのぼり、それでいて自らはメインになることなく、あくまでも引き立て役に徹する。そんな私たちのパートナーといえば……のりたま、ではないだろうか。のりたまが誕生したのは1960年。それまで、ふりかけといえば魚粉が主役だったところへ初めてたまごを採用したのが丸美屋だった。
「新しいもの、時代に合ったものをつくりたいという想いが創業者にありました。当時は高度成長期で日本が裕福になってきていた時代ですが、海苔もたまごもまだまだ高級品。家族の一大イベントであった国内旅行先、旅館の朝食でお目見えするような贅沢品でした。それらを手軽に食べてほしいということで、のりたまが誕生したんです」と金澤勇さん。
のりたまを構成している要素は発売当初から今日まで、基本的には変わっていない。
「海苔とたまごをメインとして、各素材の最良のバランスを追求し、調整しています。また食べ飽きないか、きれいな色味かといった観点から、バランスのいい組み合わせを追求しています。配合は時代に応じて変えているものの、基本の要素は不変。これらは、どれも欠くことができないのです」
基本の構成を守りながら、過去7回の改良が行われたのだが、変えすぎないことも大事だという。
「時代で味の好みは変わりますから、変えずにいると〝おいしくなくなった〟と思われてしまう。でも変えすぎると、のりたまのイメージが保てなくなります。〝おいしくなった〟ではなく、常に〝今までと同じだ〟と感じてもらえるよう、さりげなく、少しだけ良くなっている変え方がベストなんです」
いつも食べていても、久しぶりに食べても「そうそう、この味!」と皆が納得する安心感。ずっとおいしいと思ってもらうために少しの変化を加えることは、劇的に変化させるよりかえって難しくもある。けれどそれこそが、長年にわたり食卓で愛され続けている理由にほかならない。ちなみに2016年度はのりたま史上最高の売り上げを記録したという。あっぱれです!
冷めたごはんにも麺類にもよく合う。
57年の歴史の中で、減塩を行い、たまごの魅力を高めた。
1960年から7回の変化を遂げたのりたまの、大きな変更点のひとつは減塩。1981年の3代目で塩分25%カット、’96年の5代目ではさらに減塩している。ふたつには、たまごの風味を上げてきたこと。特に5代目ではこれまでの顆粒に加え、違う食感のたまごそぼろを新たに配合した。大きな変化だけに当初は様々な意見があったそうだが、これを機に売り上げが大幅に伸びた。2003年の6代目では30%増量され、すっかりのりたまの新しい顔になった。
『クロワッサン』946号より
●金澤勇さん 丸美屋食品工業/丸美屋食品工業で7代目のりたま(2010年~’15年)のリニューアルを担当。現在はマーケティング部ふりかけチームに在籍。
広告