建築家・中村好文さんと作った理想の暮らしを形にする家。
撮影・雨宮秀也
好きなものに囲まれながら、四季折々の森の表情を楽しんで暮らす。
「僕の仕事は服を仕立てるのと似ています。着るほどにその人のからだになじむ着心地のよい服。着飾るための服ではなく、普段着だけれどきちんとした服を仕立てる。そういう仕事を心がけています」と語る中村好文さん。
そのためには、設計を依頼する人の暮らし方、好みをきちんと把握することが大切だ。昨年竣工した門井卓さん、絵里佳さん夫婦の家は、自分たちの好きなもの、こんな暮らしをしたいという考えを詳しい要望書にして中村さんに提出した。
「完璧な要望書でした。自己紹介や購入した土地の特徴から始まり、持っている美術工芸品や日常の器まで、すべてリストアップして写真も添付。それを見るだけで、どんな価値観でどんなライフスタイルのお二人なのかよくわかりました」
建て主がどんな暮らしをしたいか、どんな好みかがわかれば、その暮らしを実現するための「容れもの」としての家を設計することができる。あとは豊富な知識と経験から、その人に合った「普段着の家」をつくり出すことに専念すればいい。
「門井さんの場合は、土地の東側にある森を生かすL字型のデザインが大きなポイントでした。1階のダイニングの窓、吹き抜け部分の2階の窓からも四季移り変わる森の風景を、絵を眺めるように楽しめる家にしました」
2階の和室の窓の外には、3〜4人が座れる止まり木のようなベンチをつけ、手すりと足置きをつけた。「ここに座ると森がとても近く感じられるでしょう? 昇ってくる名月を眺めながらの一杯、もいいですね」と中村さん。
設計は論理的であると同時に、イマジネーションが大切。だからどこかに必ず「物語性」や「遊び」を感じさせるものを。これも中村さんの設計の流儀のひとつだ。
『クロワッサン』937号より
●中村好文さん 建築家/設計事務所「レミングハウス」代表。著書に『住宅巡礼』(新潮社)、『中村好文 普通の住宅、普通の別荘』(TOTO出版)等。
広告