引田かおりさん、ターセンさん夫妻の新しい住まい。【前編】
影・三東サイ 文・後藤真子
大好きな吉祥寺でギャラリーとパン屋を営みながら、夫婦二人の快適な暮らしを楽しんでいた引田かおりさんとターセンさん。本誌でも、すっきり片づいた住まいと素敵な暮らし方を何度か紹介してきた。その二人が今夏、新居に移ったと聞き、さっそく訪ねた。
「以前から、もう少し仕事場に近い家に住めたらいいなと、物件を探してはいたのですが、なかなかこれと思うものがありませんでした。それが、奇跡のような出合いがあって」と、かおりさん。たまたま、久しぶりに再会したターセンさんの知人が手放そうとしていた物件が、二人にとって理想的だった。折しも娘夫婦が、出産に伴い新居を探していたため、二世帯で住み替え計画を進めることに。
生活の大転換に踏み切った心境を、かおりさんはこうも話す。
「実は、人生の後半は、夫婦二人の暮らしを完成させて、そのまま過ごしていくのだろうと考えていました。まさか、また大人数で集うことになるなんて(笑)。思いもよりませんでしたが、いざ新居づくりに取り組んでみたら、わくわくしながらできたんです」
物件は、堅牢な築18年の鉄筋コンクリート3階建て。立地がよいほか、前オーナーが1・2階と3階で世帯を分けて住んでいたのも好都合だった。1階に引田さん夫妻が住み、3階に長女の舞さん一家が住む完全分離型の二世帯住宅として、それぞれにリノベーションを実施することにした。
「更地に、一から気に入った住宅を建てようとすると、とてもたいへんです。中古住宅をリノベーションするほうが、私たちには合っていると思いました」
不要なものは取り払い、 パーツを充実させる家づくり。
引田さんがリノベーションを依頼したのは、旧宅でも家具や収納の造作をオーダーしていたオリジナル家具メーカーの「スタンダードトレード」。木の質感を生かした、シンプルで落ち着いたデザインに定評がある。
「家具メーカーとして知られていますが、近年は家具から住宅を考えるというコンセプトで建築にも着手しています。ちょうどいいタイミングでした」
新居のテーマは、旧宅と同じく「ホテルのような居心地のよさ」。リノベーション前は、リビングとダイニングの間に仕切りがあり、天井は斜めで暖炉の設置された山荘風の住宅だった。
それに対して、まずは仕切りを取り払い、一続きのLDKに間取りを変更。壁や梁には淡いグレーの珪藻土を塗り、床はリネンウールのカーペット敷きに。天井は高さを極力生かし、無垢材を羽目板張りにして、照明にはダウンライトを採用した。結果、引田さんらしい上品な雰囲気の、広々とした空間に生まれ変わった。以前から持っていた「スタンダードトレード」のオーダー家具も、この家のためにあつらえたかのように、しっくりとなじんでいる。
また、1階で前オーナーが鍼灸院として使用していた部分は、日あたりのよい寝室に改装。すると、住空間は1階だけで足りるので、「1フロアのほうが住みやすい」と、内階段を取り払って2階は独立した空間に。もともと2・3階へは外階段で出入りできる構造だったため、無理はなかった。
「暖炉だけを残して、ほぼフルリノベーションになりました。合板を使っていないし、壁が珪藻土だから、完成直後から空気がきれいで気持ちがよかったです」とターセンさん。
フラットな玄関ホールに、お気に入りのシャンデリア。
リビングから玄関ホールを見る。左はゲスト用トイレ。上がり框は設けず床をフラットにした分、ゆったりした印象に。照明はガラス作家イイノナホさんの作。
勝手口だったスペースを明るいパントリーに改装。
キッチンの横に設けた動線のよいパントリーは、実はもと勝手口だったスペース。出入り口は封鎖し、ガラスブロックをはめ込んだ。明るくて気持ちがいい。
リビングのドアは光を取り込むスリット入り。
LDKの入り口は光を透過する十字のスリット入りのドア。「夜は居間のソファに座り、ドアのスリットから玄関ホールのシャンデリアの灯りを眺めると、ほっとします」と、かおりさん。
吊り戸棚は設けず、壁は天井までタイル張り。
収納はカウンター下とシンク、調理台の下にまとめた。吊り戸棚がない分、キッチンがすっきり広く感じられる。壁面は廃番直前に入手したというグレーのタイルで上品に仕上げた。
カウンターの一部に棚をつくる、ほどよく目隠し。
「キッチンは全部オープンにするより、見えない場所が少しあったほうが安心」と、カウンターの一部に目隠しの仕切りをしつらえた。リビング側は壁、キッチン側は棚なので便利。
キッチンは黒を基調とした都会的なデザイン。
ウッディなLDKとは趣を変え、黒色を用いてシックに仕上げたキッチン。カウンターの天板も黒で大人の雰囲気だ。市松模様の床は迷った末に黒は外し、洗練された淡色組みにした。
『クロワッサン』937号より
●引田かおりさん、ターセンさん/『ギャラリー・フェブ』『ダンディゾン』オーナー東京・吉祥寺でギャラリーとパン屋を経営。元専業主婦のかおりさん、会社を早期リタイアした保さん(ターセンさん)は夫婦で活動、その美しい暮らし方も注目されている。共著に『しあわせな二人』(KADOKAWA)。今年6月より長女一家との新生活がスタート。
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