「ショートショート診療所」田丸雅智さん|本を読んで、会いたくなって。
僕は、宇宙人とか未来人は書きません。
「ちょっと骨を休めれば?」と勧められ受けたマッサージ。施術が始まると、体の中から文字どおりずるずると骨が抜かれていき……。
本作は、広く「医」をテーマにしたショートショートの作品集。突拍子もない設定も、田丸雅智さんが描くと、不思議な説得力を持つ。
「突飛なものを突飛なまま終わらせることもありますが、論理で畳み込むのは好きです。普通に考えていたらありえない内容も、一回『そりゃないだろう』っていうところまで振り切って描くと、もし実現するならどうすれば、ということまで考えられるようになる。そこから、本当に何か新しいものが生まれればいいな、と」
その言葉どおり、過去の作品に登場する海を閉じ込めた酒「海酒」はカクテル専門店とのコラボレーションで現実となった。 「アイデアは、人がポロッと言うことから思いつくことも多いです。この間も会話の中で〈腕に覚えがある〉という慣用句を聞いて、『じゃあ腕に注射とかで直接覚えさせたらどうだろう?』って」 日常生活の中で感じる小さな違和感を集め、組み合わせ、作品として構築していく。
「日々、頭のフィルターにひっかかるんです。200作くらい書いたところで、アイデアをコントロールできるようになりました。最近は、即興でストーリーを作るトークショーなども開いています」
そして田丸さんは昨年、文学賞『ショートショート大賞』を立ち上げ、新人作家の発掘・育成に力を入れている。 「ショートショートは、星新一さんの時代に非常に盛り上がりましたが、もう一度、盛り上げていきたいんです。アイデアが命のショートショートにおいて、過去に書き尽くされたテーマの作品が多くて、たとえば安易に天国や地獄、殺し屋や宇宙人が出てきたり、夢をいじったり、時間が戻ったり(笑)。それが悪いとは思いませんが、書くからには相当の覚悟で書かないといけない。それよりも、現代のモチーフがいくらでもあるんだから、新しい可能性を開いていきたい」
さらに、目標を聞かせてくれた。 「ショートショートを文学の1ジャンルとして根付かせたいんです。今って、たとえば星さんの本を読んで、もっとこのジャンルを読みたいと思っても、次に読むものが本屋で見つからない。業界として裾野が広がらないと不健全だと思うんですよ。すべての書店にショートショートの棚がある、という景色を目指しています」