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【女の新聞 100年を生きる】〈最終回〉寺田和代さん──“また人生が始まる”を40回。人々の親切や何げない一瞬こそが旅の滋味

介護保険制度施行以前から“介護”“100年を生きる”などをテーマに、人生の収穫期をその人らしく安心して過ごすヒントや実践をご紹介してきた『女の新聞』。最終回は26年間、取材を担当したライター、寺田和代の取り組みを。

撮影・土佐麻理子(人物)、寺田和代(旅) 文・寺田和代

寺田和代(てらだ・かずよ)さん ライター。著書に元被虐女性と介護をルポした『きらいな母を看取れますか? 関係がわるい母娘の最終章』『ソリスト おとな女子ヨーロッパひとり旅』ほか。「本と歩く アラ還ヨーロッパひとり旅」をwebにて連載中
寺田和代(てらだ・かずよ)さん ライター。著書に元被虐女性と介護をルポした『きらいな母を看取れますか? 関係がわるい母娘の最終章』『ソリスト おとな女子ヨーロッパひとり旅』ほか。「本と歩く アラ還ヨーロッパひとり旅」をwebにて連載中

今秋“高齢者”になった数日後、私は荷物一つでバルカン半島に発った。渡航ソロ旅の愉しさに取りつかれて30年、40回めの旅だった。

60代の自由業者で経済的余裕のない私は年一度、欧州の街々を旅するために生活全般で節約を心がけ、移動や宿泊が1ユーロでも安く体の負担が少ないよう、半年以上かけて計画を練る。一人遊び好きにとっては、その過程さえ代わりばえしない日常の愉しみだ。

海外ソロ旅=若者と思い込んでいた私が、経験や年齢が旅の味わいを深めると気づいたのは10年ほど前。今は、家事やケア、女らしさなど性役割規範から解かれた世代の女性こそ旅の適齢期だと思う。その理由を体験から綴ってみたい。

始まりは30代半ば。親との関係、子育てと仕事の両立に悩んでいた私は、その年の約20万の税金還付金で格安航空券とユーレイルパス(欧州数カ国の列車周遊券)を買い、子と連れ合いの承諾を得て1週間のソロ旅に出た。当時はWhere are you from?が聞き取れない低英語力。恥と失敗の連続だったけれど、それを上回ったのが未知の街を歩き出すたび「ここからまた人生が始まる」という胸の高鳴りだった。

1850年築の建物を活かして改築されたザグレブの貸し部屋。ホテルより安価、暮らすような滞在、家主との交流が魅力
1850年築の建物を活かして改築されたザグレブの貸し部屋。ホテルより安価、暮らすような滞在、家主との交流が魅力

その興奮は30年後の今も。若さに価値が偏る社会で、老い支度、終活などの言葉に迫られるほど“また始まる”感は日常の細部まで沁み渡り、日々を励ましてくれる。

年齢とともに旅先ではモタモタヨロヨロの連続だけど、そのぶん周りの人に教えて、助けて、と訴え、力を借りる場面が増えた。弱さの開示で人とつながることは多くの女性にとって身近だし、旅の滋味を深めるのは案外そういう経験だ。

街歩きのふとした一瞬に深い旅情や人生への哀惜を覚えるのも、この年齢の旅なればこそと思う。

最後に実践ガイドを。手作り渡航ソロ旅は(団体旅行比)予算面の魅力も大。シーズン外、セールに注目し、時間や効率を二の次にすれば飛行機代を大幅に圧縮できる。直近の旅はクロアチア・ザグレブ往復約15万円(乗継2回、出発1年前予約)、宿泊は台所・洗濯機付き貸し部屋(1泊60ユーロ=1万円弱)で食費を節約。生活の延長にある旅は少し長い散歩のよう。

初めてなら一部を旅行会社に頼んだり、一人向けツアーから始めても。国を一歩出れば旅するシニア女性と世界中ですれ違う。彼女たちから学んだのは、したいことは前倒しで、だ。人生100年とはいえ旅ができる時は案外短いから。

26年間、ページをご愛読くださった皆様ありがとうございました。

観光せず、公園や水辺で読書や物思いに耽るのもソロならでは
観光せず、公園や水辺で読書や物思いに耽るのもソロならでは

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