『給水塔から見た虹は』著者 窪 美澄さんインタビュー ──「目の前にいる自分と異なる人を、透明な存在にしない」
撮影・大槻志穂 文・クロワッサン編集部
中学2年生の桐乃は、郊外にある大規模な団地に住む。同じ団地にはベトナムやブラジルなど様々な国にルーツを持つ人びとが生活していて、桐乃のクラスにもその子弟が在籍する。窪美澄さんの新刊は、桐乃とベトナム人の少年ヒュウが交流し、ともに成長するひと夏の物語だ。
今まさに日本では国内の外国籍の人への視線が話題になりやすい。
「先日選挙が終わったばかりのころ何度も『それに当ててこの本を出したのでは』と聞かれました。取材を始めたのは2021年なのでそんな意図は全くなく。でも書きながら世の中が外国の人につらく当たる感じが高まっていることは感じていました」
書きたいものは決まっていた。
「団地を題材に書きたいと思って。私はデビュー作から何度も団地という場所を書いています。子どものころ憧れの存在だったものが、今、築50年とかで、風雪を耐えてきた姿にシンパシーを感じる。あるとき、これだけ日本に外国の人がいるのに団地の話に日本人しか出ないのは不自然だと思ったんです」
調べているうちに出合ったのが今回モデルになった場所だ。
「神奈川に、ベトナムの方がたくさん住んでいる団地があると聞きました。町にインドシナ難民の定住促進センターがある関係で。ではそれを舞台に日本人の少女とベトナム人の少年の冒険物語を書こうと」
中学生が国どうしの問題に向き合うのはかなり大きな冒険では?
「そうですね。でも中学生の30日や40日間の密度は大人と全然違うし、一歩大人の手前まで行くような成長のしかたをする。それだけの期間で子どもが変わる瞬間を書きたかったというのがありますね」
取材を重ね、作品を書き終えて、今の社会の分断について窪さんの思うところはどうなのだろう。
「この本を読んで外国の人と仲良くしようよ、という一元的なメッセージではないです。物語でヒュウは小さな罪を犯しますが、当然日本の法的なもので裁かれる必要がある。でもそれを償ってきた後には桐乃がちゃんと待ってますよ、という希望を書きたかった」
日々すれちがう、日本にいる外国籍の人たち。その存在を無視しないでほしいと思う、とも語る。
「コンビニとかですごく優秀な外国人の店員さんがいますよね。そういう、今、現実にいる人たちを透明な存在にしないでほしい、それが大きなメッセージのひとつ」
生きづらさを抱える人に寄り添う小説世界を
窪さんの作品は、様々な生きづらさを抱える人に寄り添う物語が多い。本作の桐乃もまた、母親との関係に息苦しさを抱えている。
「現実社会では、私はこういうことに対して生きづらさを感じてます! とはなかなか表明できないもの。でも小説の中であれば私は寄り添いますよ、と。私自身も生きづらさを感じて生きてきた人間なので。小説を読んで、せめてそのなかでは息がしやすくなるといいな、という気持ちで書いています」
『クロワッサン』1150号より
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