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映画『入国審査』──人生の分かれ道となる別室という名の恐怖

密室で行われる入国審査がカップルの人生を揺るがす、前代未聞のサスペンス。低予算の監督デビュー作が、映画祭を席巻! 共同監督・脚本:アレハンドロ・ロハス、フアン・セバスチャン・バスケス 出演:アルベルト・アンマン、ブルーナ・クッシ 8月1日(金)より東京・新宿ピカデリーほか全国公開。

文・兵藤育子

『入国審査』

映画『入国審査』──人生の分かれ道となる別室という名の恐怖

海外渡航の大きな関門となる、入国審査。後ろめたいことなど一切なくても、緊張と居心地の悪さを感じてしまう瞬間だ。本作では、何が行われているのか実際のところよくわからない、このブラックボックスでのやり取りを衝撃的に描いている。

とあるカップルが、移住のためスペインのバルセロナからニューヨークの空港に降り立つ。グリーンカードの抽選で移民ビザに当選したエレナと、事実婚のパートナーでベネズエラ国籍のディエゴだ。長旅の疲れを引きずりつつ、新天地での生活に胸を膨らませていたふたりは、パスポートをチェックした入国審査官にいわゆる“別室”へ連れていかれる。最終目的地はマイアミで、乗り継ぎの待ち時間にニューヨークに住む親類と会うことになっていたが、携帯の使用もそこではNG。食べ物や水を摂取できないうえ、糖尿病を抱えるエレナはインスリン注射まで没収されてしまう。犯罪者を扱うような職員の態度や尋問に憤りを隠せないエレナと、なだめるディエゴ。観ているほうも苛立ちを通り越して、呆れてしまうほどの執拗さなのだが、やがてカップルの間に、予想もしなかった疑念が浮かび上がってくる。

ダンサーのエレナと都市プランナーのディエゴ。新天地で再出発する、幸せなカップルのはずだったが……
ダンサーのエレナと都市プランナーのディエゴ。新天地で再出発する、幸せなカップルのはずだったが……

共同監督・脚本を務めたアレハンドロ・ロハスとフアン・セバスチャン・バスケスは、ディエゴと同じくベネズエラ出身。ロハス監督がスペインに移住する際の実体験が、本作のインスピレーションになっている。折しも移民への締め付けが強化されている、トランプ政権下のアメリカに舞台を移したことで、誰にとっても他人事ではないリアリティを帯びて迫ってくる。このカップルの間にどんな事情があるにせよ、国籍、民族、宗教、性別など、出自によって歓迎されることもあれば、それだけで疑われてしまうこともあるのが、残念ながら世界の現実だ。国境という見えない壁を最も意識せずにはいられない場所で何が起こっているのか、この問題作は教えてくれる。

ココが見どころ!

(c)2022 ZABRISKIE FILMS SL, BASQUE FILM SERVICES SL, SYGNATIA SL, UPON ENTRY AIE
(c)2022 ZABRISKIE FILMS SL, BASQUE FILM SERVICES SL, SYGNATIA SL, UPON ENTRY AIE

冷徹な審査官(右写真)による、執拗かつ容赦ない尋問シーンでは緊張がMAXに。入国審査は、安全保障の確保という面でも非常に重要な手続きであり、彼らは立場上、忠実に職務を行っているにすぎないのだろう。しかし、審査する相手の神経をすり減らすことを目的としているかのような、そしてときには尊厳さえ踏みにじるような質問や応対が、職務とはいえ許されるのか。入国審査という特殊な場が生み出す歪みを、見事に描いている。

『クロワッサン』1146号より

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