吉沢 亮さんが語る映画『国宝』──歌舞伎の女形として美を追求する難しさ。美しさの両義性とは
撮影・小笠原真紀 スタイリング・荒木大輔 ヘア&メイク・小林正憲(SHIMA) 文・木俣 冬
映画『国宝』(李相日監督)は吉田修一の長編小説を原作に、任侠の家に生まれた喜久雄が歌舞伎役者となり、人間国宝にまで上り詰める年代記。吉沢亮さんは、女形として稀有な才能と美貌をもった喜久雄を見事に演じきった。
「これまで歌舞伎を見たとき、そこまで激しい動きにも見えなかったのですが。いざやってみると、こんなにも汗をかいて身体的にしんどいものなのだと身を以て知り、とても驚きました」
喜久雄は女形。男性が女性以上に女性らしく見える技が必要となる。
「美しく見せることがこんなにも難しいのだと痛感しました。美しいと感嘆される領域に至るにはとんでもない労力が必要です。姿勢や肩や腰の落とし方など細かい動きの一つひとつを丁寧に積み上げた先にしか見えない景色があることを知りました」
例えば、女性を演じるとき、歌舞伎俳優は肩をなで肩にするという。
「僕は肩幅があるほうなのでそれが一番大変でした。胸を出して肩甲骨を下げるという独特の体の使い方は難しく、心身ともに理解するまでには時間がかかりました。なにより体が痛くて(笑)」
有名な『鷺娘』のクライマックスに行われる海老反りにも挑んだ。
「稽古を始めて1カ月くらいで一度やってみたら1ミリも反れなくて。絶対できないと絶望したのですが、1年少し稽古を積み体幹を鍛えたことで、どうにか少しだけできるようになりました」
美の追求に苦労したと語る吉沢さん。映画では少年時代の喜久雄が大御所俳優から「役者になるんだったら、その美しいお顔は邪魔も邪魔、いつかそのお顔に自分が食われちまいますからね」と美しさの両義性を問われる場面がある。
「僕自身も顔の印象が強すぎると言われたことがあります。しょうがないじゃん、これが僕なんだからと思って、それほど葛藤はなかったのですけれど(笑)。それでも20代のときは、自分の印象を消して役そのものになりきりたくて、体重を増減させるなどの工夫をしていたこともありました」
吉沢さんに、本誌の読者は歌舞伎ファンも多いとふると、居住まいを正した。
「子どものときから稽古を積まれている歌舞伎役者さんにかなうわけもありませんが、撮影の1年前から稽古してできる限りやりました。歌舞伎の舞台の内側に入った部分や、俳優の演技に関しても、カメラワークに凝って撮って、客席からは見えない画に溢れています。今まで見たことがないような歌舞伎の世界を体感していただけるかもしれません。皆様のお眼鏡にかなうよう頑張りましたので、どうぞお手柔らかにお願いします」
『クロワッサン』1142号より
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