保護犬・保護猫が気になったら知っておくべきこと──キャットブリーダー 沢辺雅斗さんに聞く
撮影・石原敦志 イラストレーション・網中いづる 文・門上奈央
Q. 犬や猫を飼うには、どんな迎え方がある?
迎え方は主に3つあり、最近注目度が高いのが保護犬・保護猫。
「動物指導センターや保護団体、保護活動をする動物病院などから新しい家族を迎える方が増えています。猫は犬より繁殖力が高いこともあり、頭数では保護猫が主流です。他の選択肢としてはペットショップやブリーダーがあり、いわば前者は不動産屋さんで後者は地主。幅広い犬猫から自分にマッチする子を探すならショップ、飼いたい種類が明確ならブリーダーが合うと思います」(沢辺雅斗さん)
Q. 犬猫を迎え入れたいと思ったら、まずどうする?
重要なのは、飼える環境が整っているかどうかの見極め。
「まずは犬や猫との生活のシミュレーションを。ごはんやトイレの時間、定期的なケアや通院の頻度など具体的に想定しましょう。家族と役割分担も決めておくこと。また住環境は犬の散歩に適しているか、警戒心が強い猫なら周辺の騒音が気にならないかなども事前に確認しておきたい点。近所の飼育相談ができる動物病院などに、今の自分の生活環境で飼育可能かを相談してみるのも一案です」
Q. 保護犬・保護猫とは、どのような犬猫を指す?
保護に至る経緯はさまざま。
「何らかの事情で遺棄された子、飼い主が飼育できなくなり保護団体やシェルターに移された子のほか、自分で拾った子も保護犬・保護猫に含まれます。関心が高まっている昨今、里親探しのマッチングサイトや業界大手の参入などが増え、保護犬・保護猫の家族の成約率が上がっているからか、殺処分率は低下傾向にあるようです」
性質の違いもあり保護犬と保護猫を取り巻く状況はやや異なる。
「犬は家族が決まる確率が猫より高く、迷い犬が発見される確率も迷い猫に比べて10倍ほどといわれています。結果、保護犬より保護猫の頭数のほうが多いのが現状。また近年の傾向として、保護犬や保護猫はミックス(雑種)に限らず純血種も増えています」
Q. 保護団体の探し方は?
ネットで検索すると多数見つかる保護団体。探す基準が難しい。
「初めに近所の保護団体やシェルターを調べて問い合わせることをおすすめします。動物病院の評判など、何か困った時に相談できる場所が近くにある安心感はやはり大きい。また家に迎える時、犬や猫の移動の負担を減らせることもメリットの一つです」
環境的な条件とともに、問い合わせ時に抱いた印象も大切に。
「結局やり取りするのは人と人。スタッフと話し合うなかで“相性が良さそう”と思えるかは大事です。その団体が重きを置いているポイントに共感できるかどうかを、一つの判断基準としても良いかもしれません。犬猫ファーストや飼い主ファーストに偏っていない、バランスのとれた助言がもらえるなら迎える側の心持ちも違うはず」
譲渡条件の内容が、無理がないものかどうかも冷静に判断を。
「団体のHPに追加費用の記載があれば必ず目を通しましょう。寄付金の要請やサブスクの契約などは、団体存続のために規定されているはずなので一概に悪とは言えません。ただ、それが過剰になっているところも少なくない印象なので慎重に検討してください」
Q. スタッフにあらかじめ聞いておくことは?
一目見るだけでは性格や気質は分からない。遠慮せず質問を。
「豊かな個性こそ保護犬や保護猫の魅力。HPの紹介文にある“甘えん坊”などの記載から踏み込み、対犬猫・対人間への態度や反応、生活面でネックになりそうな点なども聞くといいです。特に猫は犬と比べて、人間の性別や年齢、コミュニケーションの取り方などにより態度が大きく変わる傾向が。たとえば初見の人が苦手な猫にとって、来客の多い家は負担が大きいかもしれない。性格的な特徴は、そういった判断材料にもなります」
Q. 「保護犬・保護猫ブーム」の影響は?
「動物保護に対する社会的関心の高まりや、保護犬や保護猫という選択肢が広がっていることは、間違いなくいい影響だと思います」
反面、保護される犬猫の頭数の増加に伴う懸念点もあるそう。
「飼育管理が行き届かない、運営費が追いつかない施設や、健康面で何らかのトラブルがある個体が増えてきたという実情も。管理する側は自身の価値観で飼育環境や衛生レベルを決めがちです。特にペットショップやブリーダーと違い飼育状態が“お客さんに見られる”環境にないと、管理者の意識に委ねられる部分が大きい。保護犬や保護猫を検討する人は、飼育現場の見学を相談したり、それが難しい時は『生活している雰囲気を見たい』と写真や動画の撮影をお願いしてみるのもいいでしょう」
Q. 保護犬猫を飼うのに向いている人は?
「大前提として犬猫が大好きな人。また人対人と同様、時には犬や猫とうまく折り合いがつかない事態も生じます。気持ちに余裕がある人や面倒見の良い人なら、そんな局面も含めて楽しめるかと」
さらに犬や猫に充分なケアをするための金銭面の余裕も不可欠。
「個体にもよりますが、犬猫問わず1頭につき月1・5万円は出せることが目安。さまざまな経緯を経てきた保護犬・保護猫は、他の手段で迎える子より医療費がかかるケースが多いという認識を持つ必要があります。両親が分からない子であれば遺伝疾患の想定が難しく、生涯かかる費用も予測しにくい。ちなみに“保護犬猫イコール雑種”と捉える人は少なくないですが現状はその半数程度が純血種です。“雑種だから丈夫で病気知らず”とは限らないことも念頭に」
Q. 保護犬猫にまつわるトラブルにはどんなものが?
オンラインでの飼育相談を実施している沢辺さん。保護猫を迎えた人からの相談も増えているそう。
「最近非常によく聞く相談内容は、皮膚病や寄生虫による健康面でのトラブル。合わせて、譲渡後になかなか連絡が繋がらなくなってしまう団体も多い印象です。よってアフターフォロー体制についてあらかじめ団体側に確認しておくと、いざという時に安心です」
ほかに、譲渡後の飼育報告の厳格な義務付けや寄付金などのお金に関する悩みが寄せられることも。
「団体としては、何らかの苦境に遭い保護した犬猫を二次被害から守りたいという意識や、過去に譲渡した人とのトラブルなどから条件を厳しめに設定しているのだと思います。お金の点も含め、譲渡前に条件面で自分が納得いくまで話し合いできると理想的です」
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