スチャダラパーの歌詞は物語性が高いんです【川原繁人さん×ANIさん対談】
撮影・黒川ひろみ 文・嶌 陽子 構成・堀越和幸
川原 もちろん韻も踏んでるんですが、それよりも全体としてストーリーの心地よさがある気がします。いつも歌詞はどうやって作っているんですか?
ANI 昔はメンバー3人で集まって、SHINCOが作ったトラックに合わせて延々と考えてました。最近はひとりの作業も増え、曲を流しっぱなしにして、口に出してみたりしてます。
川原 その時に韻も考えるわけですか。
ANI そうですね。長くやってると、好きな韻のかたちが決まってきたりします。「してる」「なってる」っていう発音が好きかも。あとは濁音も入れたくなる。
ラップによく出る常套英語
川原 ちなみに「今夜はブギー・バック」に「ブーツでドアをドカーッとけって『ルカーッ』と叫んで」っていう部分がありますよね。「ルカーッ」とは?
ANI “Look Out”です。「気をつけろ」っていう意味の。
川原 それは今初めて知りました!私はスチャダラの曲でラップ英語を学んだんですよね。「チェケラ」とか「ワサッ」とか。でも「ルカーッ」はそのまま「ルカーッ」だと思ってた(笑)。スチャダラの曲は、英語のフレーズを歌詞の中に日本語とうまく混ぜて、しかも日常的なテーマにのせて聴く人の体に染み込ませたんだと思うんです。
ANI 自分たちにとって身近な言葉や話を歌詞にしたいっていう気持ちはずっとあったのかも。昔ニューヨークに行った時も、有名なラッパーがその辺を歩いてたりして、ラップって日常のものなんだってすごく感じて。シュガーヒル・ギャングもピザ屋で働いてたおにいちゃんとかがメンバーだし。
川原 スチャダラの場合、あまりにテーマが身近すぎるので「日常的なおしゃべりをしてるだけ」と思っていた人もいたと思うんです。恥ずかしながら、かくいう私も一時期そんなふうに誤解したことも。でも、ちゃんと聴くと実はものすごく正統派のラップ。アメリカのラップ文化を日本語でどう再現するかということを突き詰めているんだなと。DJのSHINCOさんが作るトラックありきのグループで、ラップって本来そういうものですよね。
ANI そう。本来はDJが主役で、グループ名もDJの名前が先にくるものが多いです。エリックB&ラキムとかDJジャジー・ジェフ&ザ・フレッシュ・プリンスとか。
川原 そもそもDJがかける音楽があって、それに合わせて踊ったりして楽しむ人たちがいた。そんなパーティーがあり、それを盛り上げるための進行役=MCが登場した。その盛り上げに使われたリズムのよいおしゃべりがラップになったんですよね。だからトラックをちゃんと聴いて、ラップとの相性を堪能してほしい!スチャダラのトラックは素晴らしいですから。
今の若い子たちは当たり前にラップができそう
川原 最近の若い人のラップを聴くことってありますか?
ANI 時々聴きます。テクニックがすごいですよね。今って普通の高校生でも全員フリースタイルができそうなくらいラップが普通になってますよね。
川原 ANIさんたちが始めた時代は『マンハッタンレコード』とか情報収集の場所が限られていたけれど、今の子たちはネットで好きなだけラップを聴けますからね。先駆者もあまりいなかった時代からここまで駆け抜けてきたANIさんたちは本当にすごいと思います。今後やってみたいことはありますか?
ANI 最近、他の人たちの歌詞を見て、詞って本当に自由だなと思っていて。自分は身近なことばかり書いているので、もっと飛躍してみたいです。♪この大空に、翼を広げ〜、みたいな。
川原 (笑)。それも楽しみです。ラップの魅力って言葉遊びの楽しさや自由さにある。同時に日常にこそ楽しさがあるっていう気づきを与えてくれることでもあるんだと思います。
広告