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考察『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』6話「うまくやるってなあ堪えるもんっすね…」鱗形屋孫兵衛(片岡愛之助)の落とした粟餅を食らう蔦重(横浜流星)の野望

大河ドラマ『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』 (NHK/日曜夜8:00〜)の主人公は、のちに江戸のメディア王と呼ばれた蔦屋重三郎(横浜流星)。6話「鱗剥がれた『節用集』」では、出版企画で意気投合した蔦重と鱗形屋孫兵衛(片岡愛之助)が偽版事件によって運命を違えていきます。ドラマを愛するつぶやき人・ぬえさんと、絵師・南天さんが各話を振り返り、考察する連載第6回です。

文・ぬえ イラスト・南天 編集・アライユキコ

うつせみと新之助

『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』6話イメージイラスト/青本企画に盛り上がっていた鱗形屋と蔦重は 苦い運命の岐路を経験、そこに平蔵が一言投げていく。江戸城内では髭の松平武元が上機嫌だが……/南天
『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』6話イメージイラスト/青本企画に盛り上がっていた鱗形屋と蔦重は 苦い運命の岐路を経験、そこに平蔵が一言投げていく。江戸城内では髭の松平武元が上機嫌だが……/南天

客足が戻った吉原では「キンキン(金々)」と呼ばれる当世風の装い──疫病本多髷に引摺りの着物でイケてる風を装った客が大発生している。

うつせみ(小野花梨)が蔦重(横浜流星)に新之助(井之脇海)への手紙を託した。新之助は、湯屋で風呂焚きの仕事をして日銭を稼いでいるようだ。手紙には新之助に逢いたいから松葉屋に来てくれとある。これは松の井(久保田紗友)や花の井(小芝風花)が客に書くような営業の手紙ではない。
「花の障りもなきようにいたす」……新之助が金の心配をしないで済むよう、自分で自分を買う金を出すという。うつせみは新之助に本気で惚れてしまったのだ。

女郎の恋人は「間夫(まぶ)」と呼ばれ、女郎が間夫と過ごすために自腹を切ることを身揚がりという。「間夫はつとめの憂さ晴らし(恋人は苦界の勤めの慰め)」という言葉がある一方で、恋をした女郎は客に抱かれたがらない。人として当然の感情だが、見世にとっては間夫は迷惑な存在だ。だからうつせみは、人目を憚るように蔦重に手紙を託したのだった。
新之助が逢いに行ったとしても、身揚がりはうつせみの借金となってしまう……彼女を思い、新之助は複雑な気持ちを滲ませる。

江戸は循環型都市

新しい「吉原細見」の相談に赴いた蔦重に、鱗形屋孫兵衛(片岡愛之助)は細見よりも『一目千本』『雛形若菜』のように、資金を出さなくてもドッカンドッカン当たるような企画を考えてくれと注文した。言うだけ言って、頼んだぜ! と去ってゆく。発注元からの「予算かけずに凄いの考えて、作って」というリクエストは世の常だ。言うはやすし。戸惑い、溜息をつく蔦重に、孫兵衛の次男坊・万次郎(野林万稔)が声をかける。

万次郎「地本(大衆向け書籍)は当たってこそだから」「おいら書物問屋になるんだ。書物問屋になれば地本よりずっと儲かるんでしょ?」

手習いに使っていた『早引節用集』(辞書の一種)を見せて「物之本は地本の10倍20倍の値段で売れるし、中身も変えなくていいんでしょ」と父・孫兵衛から教わったことをそのまま語る。「物之本」とは、書物問屋が扱う辞書や儒学書、医学書、仏教経典などの固い書籍のことを指す。
確かに、現代でもそうした書籍はエンターテインメントの本よりは値が張る。中身を変えなくていいとは言いすぎだが、大当たりを狙い企画を練る大衆向け娯楽本とは違って、大幅に版を変えずに刷り続けられるのは確かだろう。

鱗形屋の番頭・藤八(徳井優)が縁側で摺り損じ(ミスプリント)紙を揉んで柔らかくし、厠紙(トイレットペーパー)に加工している。

蔦重「摺り損じを紙屑買いに出さねえんですか?」
藤八「自前の厠紙にしたほうが実は得だって、旦那様がね」

紙屑買いはリサイクル業者だ。商家を廻って紙屑を買い、梳き直した再生紙を厠紙や鼻紙として売る。ちなみに、先述の新之助が働いていた湯屋の場面では、湯を沸かす薪として古い建具が持ち込まれていた。湯屋の釜の灰は専門業者が買い取り、肥料などとして売る。これまでも日本橋の場面では、古着の衿、裏地などを売り歩く棒振の行商人がいた。さりげなく、江戸はリサイクル・リユース業者が発達した循環型都市だったことが描かれている。

「こんなことまでする番頭なんていない」と褒める蔦重に、藤八は鱗形屋の窮状をこぼす。
鱗形屋は明和9年(1772年)の大火で蔵が焼け、在庫の紙や本を綴じる糸、墨だけでなく版木(板木)まで失ってしまったのだ。版木は印刷の原版であると同時に、出版元にとっての命である版権そのものだ。他の業者に著作権を譲渡する場合は、この版木を版権とともに売却する。火災保険がない時代に、店を再建するだけでも大変だっただろう。
藤八から、万次郎の父を思う気持ちを聞き、蔦重はがぜん張り切るのだった。

一方その頃、尾張国・熱田(愛知県名古屋市)の古本屋。万次郎が使っているのと同じ『早引節用集』を手にして、怒りに震える男──上方の版元・柏原屋(川畑泰史)がいた。柏原屋が、この本を誰が売りに来たのかと店主に訊ねると、お武家様だったという。さて、この節用集の一体なにが問題なのか。
奥付にある版元の名は、江戸浅草西仲町「丸屋源六」。

『風流艶色真似ゑもん』

鱗形屋孫兵衛と息子の長兵衛(三浦獠太)が、小島松平家・家老(家臣団最高職)の斎藤茂右衛門(蔵本康文)に注文された青本を届ける。それに添えて孫兵衛が斎藤にそっと手渡したのは、明和7年に出版された鈴木春信『風流艶色真似ゑもん』。大ヒットした艶本・枕本で、現代でいう成人向け書籍だ。
仙女から渡された薬を飲んだ主人公が豆粒ほどに小さくなってしまい、真似ゑもんとして各地を巡り、ありとあらゆる性交を見て回る物語である。真似ゑもんは体が小さいので、机の下からこっそり覗く姿もあるが、恋人同士の枕元でお茶碗を叩いて囃したり、時には性行為が繰り広げられる布団の上に堂々と寝転び頬杖ついて眺めたり。
おーい真似ゑもーん、自由すぎるよー!

満足そうに斎藤、「これなら先様も喜ばれよう」。『真似ゑもん』は贈答用らしい。実際に当時の大名家間では枕絵や春画を贈呈する、あるいは貸し借りする交流があった。(大和国郡山藩の大名が遺した安永2年(1773年)の日記に、枕絵をやり取りしたことが記される)。既存の出版物だけでなく、大名同士が贈答用に特注した豪華艶本、春画絵暦を交換することもあったという。

最後に斎藤、声を潜め、鱗形屋孫兵衛に「例のアレを倍頼むことはできるか」。名産品もない小さな大名家にとって、アレはよい収入源だと。隣で聞いている長兵衛の顔が曇る。表沙汰にできないらしいアレとは一体……。

転売ヤー組織か!?

「つたや」では、蔦重が入銀で派手に当たる本のアイデアの相談をしていた。相手は、蔦重の義兄の次郎兵衛(中村蒼)と「つるべ蕎麦」主人・半次郎(六平直政)。隣で新しい雇い人である留四郎(水沢林太郎)が働いている。ああ、唐丸(渡邉斗翔)がいなくなったからかと気づいて、寂しさを覚えた。
蔦重は、読書嫌いの次郎兵衛になぜ読まなくなったのかを問う。子どもの頃、赤本(児童向け書籍)好きでしたよね? と。次郎兵衛は、赤本は絵がいっぱいあるが大人の読み物は字ばかりだ、大人向けの青本は絵が多くても内容がつまらないと答えた。
ここで蔦重が閃いた! 出た、ビジネスアイデアとともに現れる蔦重脳内登場人物、イマジナリー江戸っ子の熊吉(山根和馬)と八五郎(阿部亮平)! 今回は次郎兵衛とともに「これ、つまんなくねえよ」「うん、つまんなくねえ」と調子を合わせる。
蔦重の脳内で江戸の大衆を代表し、どんどん増殖してゆく次郎兵衛たちに大笑いした。

「明日の朝一番に鱗形屋の旦那ところに相談に行こう」と勢いよく蕎麦をたぐる蔦重。
鱗形屋では夜を徹して秘密の作業が行われていた。主人の孫兵衛自らが摺っているのは『早引節用集』の頁ではないか。本来は地本屋が手がけるはずのない辞書を密かに作成している。
つまり、小島松平家が鱗形屋に依頼したアレとは『節用集』の作成。家老・斎藤の「アレは良い収入源だ」という言葉、そして尾張・熱田の古本屋の「お武家様が売りにきた」と照らし合わせると、どうやら小島松平家は鱗形屋に作らせた『節用集』を買い取り、転売して稼いでいる。転売ヤー組織か !?
江戸から離れた熱田にブツがあった理由は、バレないようにという魂胆はあるだろうが、もしかすると参勤交代のついでに売ったものだろうか。セコいな!!
火事で経営が苦しくなった鱗形屋は、違法出版物転売ヤーの片棒を担がされているのか。

いいじゃねえか蔦重

翌朝、新しいアイデアを携えて鱗形屋を訪れた蔦重に、作業現場を見せまいと慌てる孫兵衛。その挙動を不審に思いつつも、蔦重が披露した考えとは。

蔦重「みんな青本はつまんねえって言うんですよ。だったら、とびきり面白い青本が出たら大騒ぎになりません? つまんねえはずの青本が面白れえって」「本を読まない野郎が本を読むようになりゃシメコのウサギ(しめたもの)! 本を買う裾野が広がるってやつですよ」

青本の最大手出版社・鱗形屋の主である孫兵衛は「つまらない」と言われて怒りに目をぎらつかせるが、蔦重の提案を聞くうち、その目は別の光を帯びてくる。なるほど…… と。

更に蔦重は「青本は絵が古臭く、筋立てもわかりきってる昔話みたいだ。もっと今を生きる、我々江戸っ子に合わせられないか」と提案した。
しまいまで聞いて鱗形屋、

「いいじゃねえか蔦重。ふたりでとびっきり活きのいい話を考えてみようじゃねえかよ!」

そして、物語づくりのための取材が始まった。テーマは「今の江戸っ子」だ。
吉原の女郎たちに聞くと「そりゃやっぱり金々野郎たちでありんしょうなあ!」
『一目千本』で葛に例えられた志津山(東野絢香)にとっても金々野郎はよい客ではないらしい。「ソッチはキンキンじゃないざんすよ!」と、飛び出すのは思いっきり下ネタだし相変わらず口が悪いし。この姐さんから次はどんな悪口雑言が飛び出すのか、ちょっと楽しみになってきている。
金々野郎は次郎兵衛からも笑われている。「どっかの半可通(通人ぶった人)にでも教えられたのかねえ、目出し頭巾の奴が来てよう。止められて大門でひん剥かれてさ」
吉原には不審人物を奉行所に突き出す役目がある。顔を隠した指名手配犯かもしれないので、この頃には目出し頭巾は禁止された。余談だがこの頭巾、大河ドラマ『真田丸』(2016年)で片岡愛之助が演じた大谷吉継に寄せて、わざと白いものにしている? 
そして「目出し頭巾」の説明VTRの中で、つまみ出される金々野郎を笑う客は、尾美としのり! 今週は難易度低め。

「キンキンするのも大変だ……」蔦重の取材は続く。

将軍の日光社参問題

江戸城・御用部屋では、田沼意次(渡辺謙)ら老中が勘定吟味役(幕府の財政監査)松本秀持(吉沢悠)から収支報告を受けていた。幕府の倹約と意次の辣腕により、財政は明和9年の大火前まで持ち直したという。
自分の仕事に満足げな意次と、面白くなさげな松平武元(たけちか/石坂浩二)。

武元「かくも短き間に御金蔵を立て直すとは、そなたの金への執念には感服いたす」

勿論これは皮肉である。意次の金を重視する政策に武元が軽蔑の目を向けるのは、金銭を卑しいものとする朱子学の考え方が背景にあるように思う。礼を重んじ、君臣父子の別を徹底させる朱子学は江戸幕府公認の学問だったが、金銭蔑視の傾向が強かった。

皮肉交じりに褒めた上で、武元は将軍の日光社参を提案する。江戸城から栃木県・日光市の日光東照宮まで将軍とその嫡子、大名、旗本、御家人が打ち揃って壮麗な行列を仕立てて初代将軍・徳川家康の御霊にお参りする一大行事である。莫大な費用がかかるので難色を示す意次だったが、他の老中全員に頭を下げられ将軍・家治(眞島秀和)からは世継・家基(奥智哉)が社参を望んでいると告げられ、一旦のんだ。
その上で意次は、旗本、大名から社参取りやめの嘆願書を集めて決定を覆そうとする。
多額の出費必須の超大型イベントを回避できるのか。

初心を思い出した大人

「とびっきりの面白い青本」出版に向けて、鱗形屋孫兵衛と蔦重は大盛り上がりだ。
企画会議で飛び出す言葉がいちいち江戸。横領する従業員の隠語「源四郎」、パッと見は気づかないが場面や台詞に物語の真意や機微を仕込む「うがち」、江戸っ子のダジャレである「地口」。「今の江戸っ子」をテーマに、アイデアが次々湧いてくる。新しい物語づくりに熱中する鱗形屋は、心の底から楽しそうだ。本を作るのがお好きなんですねと微笑む蔦重の言葉に、照れくさそうに笑う。

鱗形屋の曽祖父はもともと上方から江戸にやってきた。彼の言葉通り、出版業は江戸時代の初めごろに上方で起こった。商いを伸ばした上方の本屋のいくつかは、徳川幕府のお膝元で人口が増えた江戸に店を開いた。鱗形屋孫兵衛の初代はそうした店の一つだったのだ。
そして鱗形屋は、赤本を読んで育った子が大人になっても楽しめるようにと青本を作ったという。

鱗形屋「こりゃ運命だと思ったよ。お前さんが青本を生き返らせろと言った時」

若者の熱意に触れて初心を思い出した大人。片岡愛之助の笑顔がいい。

「蔦重は飼い馴らせてきたぜ」

蔦重が須原屋を訪れると、須原屋市兵衛(里見浩太朗)が店の者に塩を撒かせている。
上方の版元が、この節用集を作ったのは須原屋ではないかと訪ねて来たという。須原屋が手にしている『節用集』は、偽版──海賊版!
画面には出てこないが、あの尾張・熱田の本屋で怒っていたのは『節用集』の版元・柏原屋だったのだ。江戸の書物問屋を一軒ずつ当たって海賊版の犯人を捜しているらしい。違法出版なんぞに手を出すものかと、須原屋市兵衛も怒り心頭だ。

蔦重が海賊版『節用集』の奥付を見ると、発行元は「丸屋源六」。蔦重には心当たりがあった。
鱗形屋に赴き、厠を借りるフリをして厠紙を確認してみると、果たしてそこには「丸屋源六」の名が。やっちまってたか……と溜息をつき、帰ろうとする蔦重の耳に、鱗形屋孫兵衛と西村屋与八(西村まさ彦)のあくどい会話が聞こえてきた。

鱗形屋「蔦重は飼い馴らせてきたぜ」
西村屋「吉原に自前版元なんて生まれたら、私たちは甘い汁なんて吸えなくなるんだからさ」

俺はただ利用されていた! カーッと頭に血が上る蔦重だったが、鱗形屋の不正を須原屋に訴えるのは思いとどまった。

蔦重「癪に障るけど、告げ口なんて性に合わねえ」「俺ぁなんもしねえ。運を天に任せるわ」

カラリとした気性。江戸っ子だねえ。
鱗形屋孫兵衛は蔦重を「飼い馴らせてきた」とは言うけれど、蔦重と青本を作ろうとしているときは本気で楽しんでいるように見えた。そこに嘘偽りなどなかったのではなかろうか。

とんでもない侮辱

偽版問題は、蔦重も鱗形屋も知らないところで事態が動いていた。
田沼意次は勘定吟味役・松本秀持に日光社参中止嘆願書の取りまとめを密かに命じていた。松本に嘆願書を差し出した小島松平家家老・斎藤は、その下に賄賂を仕込んでいた。社参とは別の嘆願をしたのだ。偽版『節用集』について打ち明け、

斎藤「どうか当家はかかわりのなきこととしていただきたく!」
 
と、ひれ伏した。大坂の柏原屋は、ついに奉行所に訴え出たようだ。公の捜査が小島松平家に及ぶのはまずい。斎藤は田沼派への恭順と引き換えに事態の収拾を願い出た──こういうことだろう。しかし、この嘆願だと、実際に偽版を制作した鱗形屋はトカゲのシッポ切りの目に遭うのでは。

意次に従った者が多いのか、それとも本当に困窮している大名・旗本がこぞって提出したのか。集まった社参中止嘆願書を、意次は将軍・家治に奉った。しかし、家治は社参を実行するつもりだ。嫡男の家基は、意次を「幕府を骨抜きにする奸賊である」と批難しているという。これ、今は意次を重用している将軍・家治も、かなり息子の意見に傾いてきていません? 家治の強い意向に意次は従わざるを得なかった。当然、武元は上機嫌だ。

武元「田沼のご家中は馬には乗れるのか。武具馬具は、兜はどこで誂えるか知っておるか」

田沼意次の父は足軽だった。歩兵なので家臣団も馬には乗れないだろう、先祖伝来の兜もないから今から注文するんだろうというとんでもない侮辱をぶつけてくる。
屈辱に耐えながら、意次は笑顔で返事をした。

意次「『高家吉良』様よろしく、ご指南願えればと思います」

御用部屋の空気が凍る。高家吉良とは、もちろん『忠臣蔵』で赤穂義士に討たれた吉良上野介。嘲りが過ぎると首取られることになるぞコラ(怒)と、意次はやりかえす。と同時に大河ドラマ『元禄繚乱』(1999年) で吉良上野介を演じたのは石坂浩二だったよねと思い出させる、大河独特の遊びの台詞でもある。

その頃、田沼家をある男が訪れていた。旗本・佐野善左衛門政言(矢本悠馬)。応対した意知(宮沢氷魚)に差し出したのは、佐野家系図。田沼家はかつて佐野家の末端の家臣であった、家系図を好きに改竄してよいので取り立ててほしいという願い出だった。しかし、意次は「由緒など要らん」と家系図を庭の池に放り込んでしまう。
由緒のない成り上がりであるが故に江戸城で滅多叩きにされた直後の申し出。タイミングが悪かった。そして武元のからかい通り、馬に乗れる家臣を探してかき集めねばならないという事実が哀しい。

火事さえなければ

青本の打ち合わせで鱗形屋を訪れた蔦重が目にしたのは、客としてやってきた長谷川平蔵(中村隼人)。字引はあるか? と店の者に訊て、出された『節用集』の奥付を一瞥して叫ぶ。

平蔵「あったぞ! 偽版だ!」

雪崩れ込んで来る奉行所の捕り方。そのまま鱗形屋孫兵衛と店の者たちは逮捕される。蔦重は長谷川平蔵と顔見知りだったことで、鱗形屋には密告者だと思われてしまった。父を追いかけてくる万次郎と、子に視線を送ってから歩き出す孫兵衛に胸が痛む。こんな姿、我が子に見せたくはなかったろう。火事さえなければ、偽版に手を出すなんてこともなかった。

閉められた鱗形屋の店舗を前に、蔦重が自分の心の中にあった黒い思い、野望を吐露する。

蔦重「俺はうまくやったんすよ。けど、うまくやるってなあ堪えるもんっすね……」

自分の望みを叶えるために、これから幾度こんな思いをするのだろう。
濡れ手に粟、棚から牡丹餅。それらをミックスした幸運に恵まれようとしている蔦重に、平蔵は粟餅を渡す。

平蔵「せいぜいありがたくいただいとけ。それが粟餅を落とした者への、たむけってもんだぜ」

あれ、俺いま良いこと言っちゃった? という照れ笑いを浮かべそうになり、平蔵は颯爽と立ち去る。鬼平の片鱗が見えましたよ、時代劇ファンの皆さん!
鱗の旦那、ありがたくいただきやす! 粟餅を食らう蔦重。その味はきっと甘くない。

次週予告。地本問屋衆を前に蔦重、啖呵切る! 倍売れる細見を作ってみせやす。眉を落とした女性三連発(だいすき)。慇懃無礼マン鶴屋喜右衛門(風間俊介)さん。蔦重、また面白そうなこと始めてる!
7話が楽しみですね。

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NHK大河ドラマ『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』
公式ホームページ

脚本:森下佳子
制作統括:藤並英樹、石村将太
演出:大原拓、深川貴志、小谷高義、新田真三、大嶋慧介
出演:横浜流星、安田顕、小芝風花、高橋克実、渡辺謙 他
プロデューサー:松田恭典、藤原敬久、積田有希
音楽:ジョン・グラム
語り:綾瀬はるか

*このレビューは、ドラマの設定をもとに記述しています。
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『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』1話イメージイラスト/主人公の蔦重と花魁・花の井は幼なじみ。初回は九郎助稲荷様がスマホで吉原を案内してくれた/南天
『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』1話イメージイラスト/主人公の蔦重と花魁・花の井は幼なじみ。初回は九郎助稲荷様がスマホで吉原を案内してくれた/南天
『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』2話イメージイラスト/吉原の花魁・花の井は平賀源内の切ない思いを見抜く。一方、江戸城内。老中・田沼意次は経済政策が理解されず、苦悩している/南天
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『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』3話イメージイラスト/女郎の酷い境遇に二文字屋女将・きくは閉業も覚悟。そんな吉原に蔦重の活躍で客足が戻る。しかし、鱗形屋孫兵衛、一橋治済の動向から暗い影が……/南天
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『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』4話イメージイラスト/忘八連合はみんな猫が好き? 大黒屋のりつの抱く愛猫の名は半助。蔦重はまたも吉原を活気付かせる妙案を思いつくが……/南天
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『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』5話イメージイラスト/絵の才能を見込まれた幼い唐丸が失踪、気落ちする蔦重を花魁・花の井が励ます。また、頼もしい助言者・須原屋登場/南天
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『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』6話イメージイラスト/青本企画に盛り上がっていた鱗形屋と蔦重は 苦い運命の岐路を経験、そこに平蔵が一言投げていく。江戸城内では髭の松平武元が上機嫌だが……/南天
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『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』3話イメージイラスト/女郎の酷い境遇に二文字屋女将・きくは閉業も覚悟。そんな吉原に蔦重の活躍で客足が戻る。しかし、鱗形屋孫兵衛、一橋治済の動向から暗い影が……/南天
『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』4話イメージイラスト/忘八連合はみんな猫が好き? 大黒屋のりつの抱く愛猫の名は半助。蔦重はまたも吉原を活気付かせる妙案を思いつくが……/南天
『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』5話イメージイラスト/絵の才能を見込まれた幼い唐丸が失踪、気落ちする蔦重を花魁・花の井が励ます。また、頼もしい助言者・須原屋登場/南天
『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』6話イメージイラスト/青本企画に盛り上がっていた鱗形屋と蔦重は 苦い運命の岐路を経験、そこに平蔵が一言投げていく。江戸城内では髭の松平武元が上機嫌だが……/南天
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