暮らしに役立つ、知恵がある。

 

広告

中央線の楽しみ ここまで東西に長く連なる沿線文化は世界でも珍しい

昔ながらの喫茶店や横丁、店主との会話が弾む個人商店。多種多様な文化がいまも息づく独特なエリアの魅力に迫ります。

撮影・山本康平 文・嶌 陽子 イラストレーション・目黒雅也

「ここまで東西に長く連なる沿線文化は世界でも珍しい。」(上智大学国際教養学部教授 ジェームズ・ファーラーさん  ・左)「西荻の町は子どもの頃からあまり変わっていません。」(イラストレーター、絵本作家 目黒雅也さん  ・右)
「ここまで東西に長く連なる沿線文化は世界でも珍しい。」(上智大学国際教養学部教授 ジェームズ・ファーラーさん  ・左)「西荻の町は子どもの頃からあまり変わっていません。」(イラストレーター、絵本作家 目黒雅也さん  ・右)

東京を東西に貫く中央線。中でも新宿から西のエリアは、個性あふれる個人経営の店が点在し、独特の文化を生んでいる。今回は中央線エリアの西荻窪で生まれ育ち、『西荻さんぽ』などの著書もあるイラストレーターの目黒雅也さんと、西荻窪在住の大学教授、ジェームズ・ファーラーさんに西荻窪(通称「西荻」)をはじめとする中央線沿線の魅力について語ってもらった。

目黒雅也さん(以下、目黒) 今日訪れている『萬福飯店』は、僕が子どもの頃から来ているお店です。何を食べてもおいしいんですよ。

ジェームズ・ファーラーさん(以下、ファーラー) 私も時々来ていますよ。目黒さんとは今日が初対面ですが、もしかすると町中ですれ違っているかもしれませんね。

目黒 普段から買い物もこの辺りでしているんですか?

ファーラー 野菜を『小高商店』で買ったり、『とらや牛肉店』や『宝家牛肉店』で肉を買ったりしてます。

目黒 僕もよく行く店ばかりです。ファーラーさんは、西荻歴は長いんですか。

ファーラー 西荻にはもう17年住んでいて、その前は阿佐ケ谷にも少し住んでました。私の中央線との出合いは27年前。上智大学の採用面接に行った後、友人が吉祥寺の喫茶店に連れて行ってくれたんです。数年後、東京に引っ越してきて初めてのお正月に、友人たちと神社にお参りではなく“中央線参り”をしました。

目黒 中央線参りとは?

ファーラー 東京から吉祥寺まで、歩いて中央線の駅を一つずつ訪ねて写真を撮ったんです。すごく面白かったけれど、足が疲れた(笑)。

目黒 すごい! 東京から吉祥寺まではだいぶ距離がありますよね。

ファーラー そもそも中央線ほど長い距離を走る路線は世界的にも珍しいと思いますよ。東京から高尾まで50kmくらいありますし。

目黒 ファーラーさんから見て、中央線沿線はどんなエリアでしょう。

ファーラー すごく独特だと思います。私は上海にも長く住んでいましたし、シカゴやニューヨーク、ベルリンなどにも住んだことがありますが、小規模な個人経営の店はもうあまり残っていないんじゃないかな。特に上海は、昔あった横丁や路地の小さな店がなくなってしまって、今はショッピングモールだらけです。だけど中央線沿線には小さな個人店がまだまだ残っている。

目黒 西荻は僕の子どもの頃と比べると、道路がきれいになったり新しい店ができたりはしましたが、大きなビルも建たず、町並み自体はほぼ変わっていないです。この辺りは幹線道路から離れているし、川もあるので、大きなトラックが入り込めず、大規模な工事がしづらい。だから開発できないのでは。難しい地形に守られているのかもしれません。

ファーラー 中野と吉祥寺では大規模開発が盛んですが、その間の高円寺や阿佐ケ谷、荻窪、西荻窪はあまりされていないですよね。それからもう一つ、目黒さんみたいな、自分の住んでいる場所が大好きな人が多い町もあまりないと思います(笑)。それも中央線エリアの特徴かな。

目黒 ファーラーさんは、「西荻町学」というウェブサイトを運営していて、西荻の町や人を調査しているんですよね。

ファーラー 何が町をいい場所にするのか?」をテーマにしていますが、もう一つの目的は調査を通じて町とつながること。人と知り合うことで自分も町の一部になりたいなと。単なる研究だけでなく、自分のライフスタイルのためでもあるんです。

作家やアーティストなどの仕事場にもなる喫茶店。

目黒 30年ほど前は、渋谷や原宿にも面白い隠れ家的な個人店がけっこうあって、僕も行っていました。でも都市開発でそういう店がだんだん減ってきた。それと並行して、中央線沿線に漫画家や作家が多く住むようになってきた気がします。ただ、僕が子どもの頃から画家や詩人などの文化人は多い印象でしたが。

ファーラー 中央線に文化人が多いのは、戦前からみたいですね。土地の値段が手頃で自然が豊かなことからだんだん作家なども移り住むようになったようです。昔から大学関係者も多かったようですし。

目黒 西荻は、今でこそいろんな飲食店がありますが、昔は多くなかった。でもこの『萬福飯店』をはじめ、イタリアンやフレンチでも本当においしい名店が当時からあったのは、そういう文化人を相手にしていたからかもしれません。

ファーラー それから、中央線といえば何といっても喫茶店。私が一番好きな文化かもしれない。ゆっくり落ち着けて、コーヒー以外に食事のメニューが充実している店、というのが私なりの喫茶店の定義かな。毎日どこかの喫茶店で仕事をしてます。

「喫茶店に流れるゆったりした時間が好き」とファーラーさん。
「喫茶店に流れるゆったりした時間が好き」とファーラーさん。

目黒 僕も喫茶店で仕事をしますよ。中央線沿線は作家や学者、絵描きなど、喫茶店を仕事場にしているフリーランスの人が多い気が。だからこれだけたくさんあるのかも。

ファーラー 目黒さんはどこの喫茶店によく行きますか?

目黒 西荻だと『物豆奇』『それいゆ』『村田商會』など。新宿の『らんぶる』も好きですね。ファーラーさんは?

ファーラー 私も『それいゆ』はよく行きます。あとは西荻『どんぐり舎』、阿佐ケ谷『gion』。阿佐ケ谷の名曲喫茶『ヴィオロン』や四ツ谷のジャズ喫茶『いーぐる』など。この辺りは音楽喫茶も多いですね。
目黒 ミュージシャンや役者も多いエリアだから、喫茶店はそういう人たちの休憩所にもなっていたかもしれないですね。夜はお酒を出す店も多かったですし。

ファーラー 作家や学者、アーティスト、ミュージシャン……。喫茶店が一種の文化サロンみたいになっていたんですよね。

昔ながらの趣ある喫茶店を愛してやまない2人。西荻窪で約50年続く純喫茶『物豆奇』の店内でも会話が弾む。
昔ながらの趣ある喫茶店を愛してやまない2人。西荻窪で約50年続く純喫茶『物豆奇』の店内でも会話が弾む。

広告

  1. HOME
  2. くらし
  3. 中央線の楽しみ ここまで東西に長く連なる沿線文化は世界でも珍しい

人気ランキング

  • 最 新
  • 週 間
  • 月 間

注目の記事

編集部のイチオシ!

オススメの連載