プロレスラーから溢れ出る人間性を見てもらいたい。
撮影・木寺紀雄、MEGUMI
文学でもプロレスでも、偉人たちがやっていること。
西 どのジャンルでも、「一回あの人と仕事しておくといい」という人がいると思うんです。作家であれば、文学賞の選考委員を務めると、他の委員の方々の文学観がわかってとても勉強になるらしいんです。里村さんは絶対、プロレスラーにとって、「一回里村選手と試合してみろ」と言われる人だと思います。って、私が言うことでもないんですが。
里村 自分がそうなれているかはわからないのですが、偉大な先輩方と対戦できたことで、レスラーとしてひとつ上に行けた実感はあります。そして、師匠の長与さんもそうですし、アントニオ猪木(いのき)さん、天龍源一郎(てんりゅうげんいちろう)さん、小橋建太(こばしけんた)さんという名だたる名レスラーの方々に目の前で試合を見ていただいたあと、反省点を伺いにいくと、全員に言われるのは必ず同じで、「技を使いすぎだよ」ってこと。ひとつでいい、それを極めるんだと。
西 しびれますね……! でも確かに、猪木選手の試合を思い出すと、浮かぶシーンはシンプルかも。
里村 はい。若手選手と対戦すると、みんないろんな技をやりたがるんです。派手な技をやりたい、って。
西 その気持ち、わかります!
里村 そういう子たちに向かって、私も「ひとつの技を極めろ」とアドバイスするようになって、結局は同じなんだなと思います。
西 作家の仕事でも、同じようなことを感じます。例えば「代表作」と呼ばれる作品があると、絶対にそれを超えたいわけじゃないですか。でも、「私、こういう角度もいけます」みたいな色気を出しちゃうと大体大ケガします。例えば、作家の大先輩である角田光代さんは、とんでもない数の作品を出しているのに、通底している何かは全くぶれていない。角度やモチーフが違うだけなんです。
里村 文芸も同じなんですね。
西 試合中の里村選手も、今や「横綱」と呼ばれる堂々とした赤コーナー(=王者)側のはずなのに、途中から青コーナー(=挑戦者)の試合をし始める。デビュー当時のような、がむしゃらで闘志むき出しというアティテュードはそのままに、技術を磨いてこられた。そういうところも、偉大な作家たちと共通しています
60、70代の自分を想像し、大きな決断をした。
西 今日、里村さんとお会いして小柄さに驚かされました。自分を大きく見せる研究をされたそうですね。
里村 最初は、新聞広告の「身長を伸ばす薬」に手を出して……。
西 ありましたね!
里村 1センチも伸びなくて(笑)。10代後半であきらめて、「大きく見せるテク」を学びました。宝塚のチケットを買って男役の方々を観に行ったり。あとは、アジャコングさんのような100キロ超えの選手をどうやったら担げるか、どうやったら倒せるかということも研究しました。
西 なるほど。100キロの選手を担げたら、それは大きく見えますよね。
里村 プロレスにはほぼ階級がなく、小柄な選手でも活躍できる。ただし、100キロの選手を倒すには技術が必要。ただかわいいだけでなく、説得力のある試合が大事です。
西 来年の引退を発表されたのは、どんなお気持ちからですか。
里村 40歳を過ぎてから、60、70代の自分をすごくイメージするようになって。自分のようながむしゃらなファイトスタイルではいつか取り返しのつかないケガをする、どうしようかなと思っていた時、米国の団体に行く機会に恵まれました。かつてのスーパースターたちが指導者として裏方を担っていて、私はこういう存在になるべきだ、そしてプロレスに一生関わっていこうと思いました。
西 かっこいいです。そして素敵なレスラーがちゃんと引退を迎えられてよかったと思います。さみしいけれど、見届けられるのはファンとして幸せです。団体が育っているからこそ引退できるわけですし。
里村 そうですね。いつかスーパースターを育てて、日本武道館を満員にしたいです。現役を引退しても、第2の人生が待っています。
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