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「田中一村展 奄美の光 魂の絵画」東京都美術館【青野尚子のアート散歩】

文・青野尚子

田中一村(いっそん)の知られざる側面に迫る。

色鮮やかな奄美の花や空を写しとった田中一村。生前に個展などの形で作品が発表されることはなかった彼に注目が集まったのは、三回忌に奄美の人々によって開かれた展覧会がきっかけだった。その4年後の1984年にNHK教育テレビの「日曜美術館」で紹介され、全国に名を知られることになる。

《ずしの花》 昭和30年(1955) 絹本着色 田中一村記念美術館蔵 作品画像はすべて(C)2024 Hiroshi Niiyama
《ずしの花》 昭和30年(1955) 絹本着色 田中一村記念美術館蔵 作品画像はすべて(C)2024 Hiroshi Niiyama

84年以降、たびたび個展が開かれてきた一村だが、今回の見どころの一つはこれまで〝空白期〞とされてきた昭和初期の作品群だ。東京美術学校(現・東京藝術大学)に入学後わずか2ヶ月で退学したこのころ、一村は吉祥画などで生計をたてていた。当時の作品は近年になって発見されたものが多く、今回の個展で初公開となるものもある。

《アダンの海辺》 昭和44年(196 9) 絹本着色 個人蔵
《アダンの海辺》 昭和44年(196 9) 絹本着色 個人蔵
《不喰芋 (くわずいも)と蘇鐵》 昭和48年(1973)以前 絹本着色 個人蔵
《不喰芋 (くわずいも)と蘇鐵》 昭和48年(1973)以前 絹本着色 個人蔵

47歳のころ旅をした九州や四国、南紀は彼にとって大きな転機となった。しかし公募展にすべて落選した彼は作品を処分し、家を売って奄美大島に向かう。奄美では紬工場で染色工として得た給金を制作費にあてながら絵を描く。一村は自作を指して「閻魔大王えの土産品」と言ったという。緻密に計算された構図、東京から取り寄せた最上級の画材、対象に肉薄する写生。それらが相まって生まれた限りなく濃密な、それでいてどこまでも透明な絵画はこの世のものではない存在に捧げるものだった。

今回の回顧展では知られざる一村の内面に迫る。これまで展示されたことのある絵も異なった輝きを帯びる展覧会だ。

絵画を中心にスケッチ・工芸品・資料など250件以上を展示する最大規模の回顧展。奄美の自然を紹介する高精細映像も。
 
 『田中一村展 奄美の光 魂の絵画』
開催中〜12月1日(日)
●東京都美術館(東京都台東区上野公園8・36) 
TEL.050・5541・8600(ハローダイヤル) 
9時30分〜17時30分 月曜休(10月14日、11月4日は開室、翌火曜休) 観覧料
一般2,000円ほか
  • 青野尚子 さん (あおの・なおこ)

    アート・建築関係のライター

    著書に『超絶技巧の西洋美術史』(池上英洋さんとの共著、新星出版社)など。

『クロワッサン』1126号より

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